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富岡雄大(ユウダイ)、十六歳。O型。四月九日生まれの牡羊座。一年A組35番。バスケ部。人懐こいムードメーカーで、人気者。
182センチのモデル体型、笑顔が爽やかでキラキラしてる。黙ってても喋ってもかっこいい。あとつい昨日手に入れた情報として、近くで見ると全部がプラス方向に二割増し。鼻血もの。



「………」



首からタオルをかけ、爽やかに笑っている写真を眺めながら、俺ははああーっと大きな大きなため息を吐いた。
もちろん写真もかっこいいけれど、やっぱり生は別物だった。めっちゃキラキラしてた。しゃべったり表情が変わるのをあんな間近で見られるなんて、ほんと、昨日はヤバかった。
本当にかっこよくて、爽やかで、くだらねぇことで悩む姿にもキュンときた。遠くから見てるより近くで見た方が、感じた方が魅力的とか、なんなんだあいつ、最強か。ビビるわ。



(…ああ、それなのに)



さっかく初めてしゃべれたというのに。しかも二人きりだったというのに。どうして、どうして俺は。



「なんであんなかわいくないんだ俺はあああああ」



うがあああ!!!っとどこに向けようもない苛立ちを、ガバッと写真を放り出す勢いで仰け反りながら叫んで発散する。これじゃ発散にもなにもならないけどな!くそっ!くそっ!



「なに会長、かわいくなりたいの?まじウケるー」
「まったく、またトミオカ病ですか?」
「……かいちょ…」



会長席でじたじたしている俺の周りにわらわらと集まってくる男共を見上げる。呆れたりニヤニヤしたり無表情だったりするけど、みんななんだかんだ話を聞いてくれるから良い奴らだ。



「今度はどうしたんです?」
「また新しいブロマイド手に入れたーとかはやめてねー」
「………」



しかしこいつら、学園一の美形集団とか言われてるくせに爽やかさが足りない。自分も含めて計算尽くされたような美形たちすぎて、圧倒的に爽やかさが足りないぞ。ただそこにいるだけでサァッと風が吹き、髪が靡くような、そんな爽やかさが。



「昨日…昨日俺、富岡と、話した」
「えええー!!?」
「ほ、ほほほ本当ですか会長!」
「……がん、ばった…」



一斉に驚きの声が上がる。たったそれだけのことで大袈裟なほどに驚くそいつらを前に、あまりの恥ずかしさに俺は机へと突っ伏した。
こんなのおかしいのは、俺だって気づいてる。だけど、でも、俺基準からしてみれば、片想いしてる俺をずっと見てきたこいつらからしてみれば、本当にとんでもない進歩で。


ずっと、ずっと好きだった。
あいつを初めて認識したのは中学二年の時。たまたま通りかかった体育館でバスケをしていた新入生のあいつを見て―――あっという間に、胸を撃ち抜かれたんだ。滴る汗、真剣な表情、チームメイトに飛ばす鋭い声。しかしゲームが終わった途端、目映いばかりの爽やかさで、笑うから。
一瞬で目を奪われた。体に電撃が走ったようだった。
ベタだけれど、それが、俺の初恋だったんだ。



「えーなに!なに話したのー!?」
「や、なんか落ち込んでたから励まそうと…」
「そ、それでどうしたんです?」
「えっと、なんかちっせぇことで悩んでたから、くよくよすんな前向けよって言って」
「……言って…?」



そう、そこまではよかったのだ。我ながら上手いこと励ませたと思う。俺様の優しさが滲みでたというか、な。うん。
それで俺は、そのあと―――…



『会長なら、名前と顔くらい知ってて当たり前だ!それにうちの生徒が落ち込んでたら励ますに決まってんだろ!』
『え、じゃあ、会長だから俺を…』
『そう!その通り!だから別にお前が特別なわけじゃねぇ!自惚れんな!』


………ない。
ないない、ねぇわ。いくらテンパってたとは言え、あれはねぇわ。なんなの?自惚れんなとか馬鹿なの?あれはツンデレと言っても許されないレベルだぞ。どういうことだ。



「あああああああ俺のバカアアアアアア!!!!」
「うわっ!会長!?」
「いきなりどうしたんですか!」
「……おち、つい…」



泣きたい。信じられない。なにをしてくれっちゃってるんだ、昨日の俺。初コンタクトだったーつーのに印象最悪じゃねぇか!!
半べそになりながら、俺は一番近くにいた会計に縋りついた。



「時間て…戻らねぇかな?」
「んー、無理だねー」
「いくらでも払うからああ…」
「お金じゃ無理だよかいちょーう」



よしよしと頭を撫でられながら、しかし突きつけられる真実は残酷だ。そこは俺に免じて嘘でも戻ると言ってくれ。会計のくせに。この鼻水をお前のシャツで拭いてやろうか。



「なんでなんだ!!なんで素直になれないんだああああああ」
「ちょ、落ち着いてよ会長!」
「どうせ俺はかわいくねぇよおおおおおおお」
「大丈夫ですよ、貴方には貴方の魅力が、」
「うっせぇどうせ俺にはかわいさも爽やかさもねぇし!!!」
「…かいちょ、かわい、よ…」



えぐえぐとべそをかく俺を中心に、慰めようとわたわたする役員たち。
でもお前たちがなにしようと、俺がいくら払おうと、時間は戻らないのだから仕方ない。言ったことは撤回されないし、俺の性格を素直に矯正することだってできないんだ。
お前たちの圧倒的爽やかさ不足が、どうにもならないのと同じように。



「どうせ俺には金しかねぇよおおおおおおお」






(お金では買えないらしい)

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