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13

「急に呼び出したりして、ごめんなさいね」
「いえ。僕もゆっくり話したいと思ってたので」

午後の柔らかい日差しが降り注ぐカフェのテラス席。
そこに向かい合わせに座る金色を纏った1組の美男美女に、周囲の視線は釘付けになっていた。
女性の方が少し年上のようだが、男性の穏やかで洗練された物腰が年齢差を埋め、一見似合いのカップルに見える。

―――実際のところ彼らは、手のかかる姉に心を砕く弟と不甲斐ない上司に嘆く部下、という組み合わせであったけれども。



「それにしても、同居の件に関しては驚いたわ。アルフォンスくんは聞いてたの?」
「はい。…と言っても、引っ越し前日に聞いたんですけど」
「まぁ……それじゃあ、反対する暇もなかったわね」
「相手は少将ですから、僕としては特に反対しませんけど」

にこやかに言い放ったアルフォンスに、ホークアイは目を瞬かせる。
てっきりアルフォンスは怒り狂っているだろうと思っていたのだ。
何しろエルリック姉弟といえば、過酷な旅の途中、互いが唯一無二の存在であると言わんばかりの盲目さで、共に支え合い、互いを思い合っていた。
まるでひとつの魂を分け合っているかのような頑なな絆は、時に周囲の人間の存在すら見えなくなるようで、ロイをはじめその部下達は2人の行く末を案じていたくらいなのだ。

「姉さんは昔から本能と野生の勘だけで生きてますから。僅かにでも少将によこしまな気持ちがあれば、多分もっと警戒しますよ」
「あら。エドワードくんはそういうところ鋭いの?」
「はい。旅してた頃からそうだったんですけど、下心満載で近付いてくる人には何か感じるらしくて。よく“生理的に合わない”とか“気持ち悪い”なんて言って逃げてましたよ。だから、その香水や化粧品やアクセサリーをくれた人っていうのは、まだそんなに危険じゃなかったんだと思います」

なるほど、とホークアイは頷く。
一見鈍そうに見えるエドワードだが、その実とても鋭い感性を持っているのだとしたら、アルフォンスのこの落ち着きようには納得出来た。
エドワードの様子から考えて、現時点では全く心配要らないのだろう。

「何度か暴漢に襲われてますけど、実際のところ、相手には指1本触れられてないんです。襲われるより先に撃退してしまうので。ヘタすりゃ姉さんの方が暴漢ですよ」
「それは頼もしいわね」
「仮に少将が今後姉さんによこしまな気持ちを抱いたとしても、何かしでかす前に姉さんも気付くでしょうし、その時は少将もタダじゃ済みませんよ。まぁ、少将が姉さんを無理やりどうこうするとは思えませんけど。それで姉さんが受け入れて少将とくっ付くなら、それで構わないし……」
「大人になったわね」

ホークアイがそう言って微笑めば、アルフォンスは照れたように笑った。
その表情に、彼にも誰か大切な相手がいるのだろう、とホークアイは何となく思う。
愛しき子供達は、過酷な旅を終え、互いが全てだった世界を抜け出し、姉弟それぞれが別の道を進み始めた今、良い意味での独り立ちをしたのだ。

「それに、少将くらいの人でないと姉さんは手に負えないと思います。めちゃくちゃですからね、あの人」
「私から言わせてもらえば、エドワードくんくらいの人でないと少将は上手く扱えないと思うわ」
「どっちもどっち、ですね」
「全くだわ」

クスクスと笑い合い、紅茶を一口。
それから、共犯者の微笑みをひとつ。

「あの2人、どうなると思います?」
「そうねぇ……まず、一筋縄ではいかないでしょうね」
「手を貸すと余計抉れそうだし」
「何しろ私達とは次元が違う思考回路をお持ちだから」
「どう見たって両思いなのに……」
「肝心の自覚がないのだもの……」
「……面倒臭いなぁ」
「……そうね」

考えれば考えるほど疲れる、という結論に達し、2人は考えるのをとりあえず止めた。
しかし、何かと最強な組み合わせには違いないのだから、みすみす放置しておく訳にもいかないのが辛いところであったが。


「とにかく、2人の明るい未来の為に、ひいては私達の安息の為に、頑張りましょう」
「はい」


そしてその日、人知れず「ロイ・マスタングとエドワード・エルリックをさりげなくくっ付ける会(ホークアイ命名)」が結成された。
現時点で会員はホークアイとアルフォンスだが、きっと強制的にメンバーに加えられるであろうマスタング組の連中を思い、アルフォンスは苦笑を零した。



2010/12/14 拍手より移動

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