更に進展? ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!!! 何かもう、いろんな事がムカつく! エドワードは最近、理解の範疇を超えたよく分からない気持ちに悩まされていた。 とある男の事だ。 とにかく、出会いからして最悪だった。 その男は、この世にここまで最低で最悪な人間がいるとは思わなかったと言い切れるくらい、最低最悪な人間だった。 まず、勝手にエドワードのファーストキスを奪ったのはよろしくないだろう。 じゃあ、許可を貰えば良いのか、という問題ではない。 あれは好きな者同士が思いを交わす為にする行為であって、初対面の人間にされて良い行為ではないのだ。 大体なんだあの男。 三十路前のオッサンのくせに、無駄に整った顔をしやがって。 あの顔でいろんな女を引っかけて誑かしまくった訳だなちくしょうめ。 いつもいつも綺麗な人を侍らせて、澄ました顔で人をバカにして。 大体、俺の事が好きな訳じゃないくせに、顔見りゃ「好き」だの「可愛い」だの「デートしよう」だのと煩いし。 どうせ面白がって引っかけたものの、俺が靡かないからムキになってるだけなんだろう。 あぁ、もう、ムカつく。 ほんとムカつく。 「だから、アイツは最低なヤツなんだって!」 ハンバーグを頬張りながら熱弁を奮う姉に、アルフォンスは生温い視線を向けた。 それはあれでしょう。 結局のところ、その人を意識している、という事に他ならないのではないのかな。 なのに、なんでこの姉はここまで自覚がないんだろう。 内心ではそう思ったが、あえて口にはしなかった。 こういう事は、自分で気付かないと意味がないのだ。 現に、姉の唸り声を聞くともなく聞いていた両親も姉の無意識の真意に気付いたらしかったが、母親はニコニコと(何故か)嬉しそうに笑い、父親は悲しみに咽び泣きつつも特に何も言う気はないようだった。 「大体アイツ、母さんの事、綺麗だって言ったんだぞ!?絶対狙ってんだ、きっと!」 はいはい、そんな訳ないからねー。 アルフォンスは心の中でツッコミながら、ブロッコリーを咀嚼する。 いくら自分達の母親が若くて綺麗だからといって(ここは否定しない)、さすがに2児の母親には手を出さないだろう。 そこまで女性に不自由しているとも思えないし。 ちなみに両親がおしどり夫婦として名高いのは、世界的にも有名な話だ。 「母さんの事はただ単に誉めただけじゃないの?」 「アイツの歳なら、母さんも充分守備範囲じゃん。母さんは綺麗で可愛いから、絶対狙われてるんだって!」 ふと、撮影現場での事が頭を過る。 今日の分の撮影を終え正気に戻ったエドワードの目に真っ先に飛び込んできたのは、ロイと傍に腰掛けて話していた母親役の女優の姿だった。 何やら昼間には似つかわしくない空気を纏わせた2人は、ただのお友達ではない事くらいエドワードにも分かった。 所謂男と女の関係ってヤツだと。 確か彼女はトリシャより年上だ。 「とにかく、俺、アイツ嫌い。ムカつくし!」 「エドは、マスタングさんのどこがそんなに嫌いなの?」 「そもそも良いとこないじゃん。タラシだし、胡散臭いし、心にもない事言って俺をからかうし、余裕綽々なとこもムカつく」 指折り数えてみて、エドワードは眉間に皺を寄せた。 ここまで見事に良いところがないとは、ある意味あっぱれだ。 なのに何故、あの男は女の人にもてるんだろう。 確かに女あしらいは上手いのだろう……それは分かる。 何というか、自分の見せ方を知っている、と言えば良いだろうか。 俳優は天職だと思うし、結婚詐欺師にでもなれば国家予算並の大金が稼げるに違いない。 とにかく、黙って立っているだけで人の目を惹くのだ。 髪も目も黒で、華やかな色を一切纏わないくせに。 「……強いて言えば、顔?」 つい声に出してしまい、はた、と我に返る。 「……いや!別に、だからってアイツの顔が好きな訳じゃねーぞ!」 「あら。エドったら、案外面食いなのね」 「違う!断じて違う!!」 「照れなくても良いのに」 「だから、違うってば!!」 大慌てで否定するエドワードは、顔といい耳といい首といい、とにかくどこもかも真っ赤だった。 そうやって否定すればするほど、肯定しているも同然だとは気付かないのだろうか。 アルフォンスは人参のグラッセを咀嚼しながら、とりあえず傍観を決め込む事にした。 この上なく天邪鬼な姉の事だ。 いちいち突いたら余計に拗れて面倒な事になるに違いない。 食事くらいゆっくりしたいではないか。 「そうか……エドワードはあの手の顔が好きなのか……」 「だから、違うっつってんだろクソ親父!!」 だが、ホーエンハイムの余計な一言で久々の親子喧嘩が勃発し、アルフォンスの細やかな願いは叶えられる事はなかったのだった。 「エド……ちょっと来て」 「へ?何だ?」 翌日、学校へ着くなり幼なじみのウィンリィにとっ捕まり、校舎の屋上へ連れて行かれた。 ちなみにウィンリィは、割と大きな病院の1人娘だ。 お嬢様学校に通いながらもあまりお嬢様とは言えない性格で、エドワード同様、校内でもアウトローな部類といえば良いだろうか。 互いに自分を偽らずに付き合える気安い存在だ。 「アンタ、水臭いわ」 「は?」 「私、アンタは唯一無二の親友だと思ってたのに」 「だから、何だよ?」 何やら不機嫌な顔でそう言われ、エドワードは首を傾げた。 朝一で文句を言われるような理由に思い当たる節はない。 だが、ウィンリィは眼光鋭くエドワードを睨み付けると、 「アンタ、あの、ロイ・マスタングと付き合ってるんですって?」 などと、意味不明な言葉を投げかけ、1冊の週刊誌を鼻先に突き付けた。 ゴシップ記事が売りの女性週刊誌だ。 「そういうおいしい話、隠さないで私にも聞かせなさいよ!」 「は?…何言って……」 「これよ。まだばっくれる訳?」 「え……?」 ウィンリィが指差したページには、撮影現場と思しき場所でロイとエドワードが並んで立っている写真が巻頭カラーで掲載されていた。 遠目に撮られたものらしく顔ははっきり写っていないが、エドワードを知る人間にはエドワードだと分かる感じの写真だ。 おまけに何やらご丁寧に【ロイ・マスタングに新恋人!】の見出しまで付いている。 「はあああああ?なんじゃあこりゃあああああ!?」 あまりの事態にエドワードは発狂する勢いで叫ぶと、雑誌を真っ二つに引き千切った。 2010/06/11 拍手より移動 back |