年の差の恋のお題 | ナノ


恋人同士に見られた日

大人びたワインレッドのドレス。
慣れない踵の高いヒールは、立ち居振る舞いを慎重にさせるには充分で、自然な仕草でエスコートされそろりと腕を絡ませれば、どこから見てもお淑やかな令嬢のようだ。

「うぅ……なんで、こんなカッコ……」
「とても綺麗だよ」
「ウソばっか!」

ツンと尖らせた唇は艶やかなローズに染められ、滑らかな白い肌と健康的なピンク色の頬が整った容姿を更に際立たせていた。

「嘘じゃないよ。ほら、君があまりにも綺麗だから…ご覧、このフロアーの注目の的だよ?」
「どうせ、似合ってねーから面白がってんだろ」
「まさか」

ここまで無自覚とは嘆かわしい。
ロイはそう言ってため息をつくと、どこか所在なさげに俯くエドワードに視線を落とした。
シンプルなドレスは、エドワードが普段隠している身体のラインを露にしている。
スレンダーで少し凹凸に乏しいが、充分均整の取れた綺麗なスタイルだ。
機械鎧を隠す為に肩を出さないおとなしめのデザインだが、その分大きく開いた胸元はドレスの鮮やかな色が陶器のような素肌を引き立ててエドワードの幼さを上手く隠している。
蜜を溶かしたような金色の髪は綺麗に結い上げられ、白い項は健康的な色香を醸し出す。

うっとりと見惚れていると、大きな琥珀の瞳が何やら不満げにロイを見上げてきた。

「なんで俺なんか連れてくるんだよ……」
「それこそ愚問だな。一体、君以外の誰を連れてくると言うんだね?」
「だって……大佐に釣り合う綺麗な人、いっぱいいるじゃん」
「君は誰よりも綺麗だよ」
「ウソだ!」

心からの賛辞の言葉も「ウソ」の一言で切り捨てられてはお手上げだ。
どこまでも無自覚なエドワードに、ついついため息が零れる。

「今日のパーティーは軍の高官も多数出席してるからね。私には君という決まった相手がいるんだ、という事をアピールしてるんだよ」
「見合い避けのつもり?」
「いや、どちらかと言うと“君は私のものだ”と知らしめたいだけだ」

身の程知らずにも、君を欲しがる輩が後を断たなくてね。
些か忌々しそうに呟くロイの言葉に、エドワードは「よく分からない」とでも言うように首を傾げた。

「とにかく、私から離れないように。訳の分からん輩に君をさらわれたら適わん」
「いや、んな事ありえねーから」
「分からないかい?私には、周りの男共の嫉妬の眼差しが痛いくらいだよ」
「嫉妬、って……それはこっちの台詞で……て、あれ…?そういえば、今日は誰も大佐に近寄ってこないな」

なんで?と疑問符を飛ばしながら首を傾げる。
いつもロイと2人の時には、必ずと言っても良いほど、これ見よがしに間に割り込んでくる女性達が後を断たないのに、今日は誰も近付いてこない事に気付いたのだ。
周りを見回せば、チラチラとこちらを窺うように視線を寄越している女性が確かにいるのに。

「私達があまりにもお似合いで、誰も近寄れないのさ」
「んな訳あるかよ」
「やれやれ……少しは自覚してくれたまえよ」

呆れを滲ませた囁きにぱちりと瞬きすれば、苦笑を浮かべたロイに引き寄せられ、目元に口付けを落とされた。

「ちょ…っ、何すんだ!」
「ちょうど良い。恋人同士だというところを見せ付けてやれば、変なちょっかいをかけられなくて済むじゃないか…お互いに」
「恋人、って…っ!」
「おや。違うとでも言うのかい?」

そう言って人の悪そうな笑みを浮かべて顔を覗き込んでくるロイを、エドワードは恨めしそうな目で睨んだ。
知らず赤らんでしまった目元に、ロイの指が触れる。

「嫌かい?」
「違う…けど、…この程度じゃ、大佐の恋人なんて言えないもん……」
「やれやれ……君のハードルは高すぎるな」

こんなに綺麗なのに。
そう言えば、エドワードは可愛らしく唇を尖らせて拗ねたように「大佐に合わそうとすると大変なんだよ」なんて事を言う。

「どういう事だい?」
「だから……こういうカッコは、ちゃんと手足取り戻してから、って決めてたの!」

手足を取り戻して旅を終えたら、お洒落の勉強をして、もっともっと自分を磨いて、誰の目から見ても文句のつけようがないくらい綺麗になって―――そしたら大手を振って「俺が大佐の恋人だ」って言えると思ったのに。
至って不満そうに言うエドワードに、ロイは愛しさを隠しきれないとばかりに破顔した。

「なるほど、それは失礼した」
「むぅ……」
「だが、それを聞いて私は、今日君を連れてきて良かったと思ったよ」
「えぇー…なんで?」
「だって君は、今でもこんなに綺麗なのに、更に綺麗になって“私の恋人だ”とみんなに宣言してくれるんだろう?」

その時が楽しみだよ。
そんな風に笑えば、エドワードはしばらくポカンとした顔をした後、ふわりと笑う。


「うん……俺も楽しみだよ」


その花のような微笑みは、甘くロイの心を疼かせて。
そこにはもう幼さは欠片ほどしかなく、少女は着実に成長を遂げていた。



2010/03/08UP

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