大事にされてるのは分かるけど 「鋼の。私と恋をしてみないか?」 定期報告に立ち寄った東方指令部執務室。 顔を見るなり開口一番そう言った男は、余裕の笑みを浮かべてエドワードの手を握った。 「は……?何言ってんのアンタ?」 「恋をすれば、きっと君も美しくお淑やかな女性になると思うのだが、」 「どうせ俺は、薄汚くって乱暴者だよ!」 頭に血が上って言葉の途中で怒鳴りつければ、男はしれっとした顔で言葉を繋ぐ。 「誰もそんな事は言ってないだろう」 「思いきり言ってんじゃねーか!喧嘩なら買うぞ、コラ!」 「いや、言ってない。私は、君が私の傍で綺麗になっていく過程を見たいのだよ」 そう言って男は、これ以上ないというほどの柔らかい笑顔を浮かべた。 その見事なまでのタラシのテクニックに、一気に顔に血が集まる。 「どうだろう?君が美しく成長する過程を1番近くで見守る権利を、私に与えてくれないか?」 「……胡散臭いぞ」 「私は、君が好きだよ」 「…………」 そっと指先にキスを落として、まるで街で出会う綺麗な女性達にするような眼差しで、男は“堕ちておいで”と唆す。 不慣れな子供は、身体を震わせこくりと頷く事しか出来なかった。 「たいさー」 「もう少しだから、おとなしく待ってなさい」 「んー…」 山積みの書類を捌きながら一瞬エドワードへ向けられた視線は、庇護すべき子供への柔らかく慈愛に満ちたものだ。 それにぷうっ、と頬を膨らませて、エドワードは目の前のテーブルに山と盛られた焼き菓子に手を伸ばした。 それは、エドワードが来ると知ったロイが、手ずから用意してくれた物だ。 「お茶のおかわりは如何かな?」 「まだあるから、良い……」 「そうか。では、しばらく良い子にしておいで」 まるっきりの子供扱いに、エドワードはますます頬を膨らませた。 普段からそうなのだ。 ロイからエドワードに贈られる愛情表現は、頭を撫でたり、おでこにキスしたり、膝の上に抱っこしたり……なんて、子供にするような事ばかり。 確かに子供の域を出ない年齢ではあるけれど、これではまるで幼子だ。 大事にされているのは分かってるけど、それだけじゃ足りない。 自分から「恋をしよう」と誘ったくせに。 あの唆された日から1年―――変わった事といえば、 「よし、終わった。ご飯食べに行こうか」 「うん」 少し素直に返事が出来るようになった事。 2009/08/27UP back |