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略取


〔side 悠那〕

▼△▼
眼帯のお兄さんとアヤトくんのお姉さんは、背中合わせで構えている。
来るなら来いって感じだ。

「連れ帰る...?何勝手な事...」

お姉さんがそう言ったのとほぼ同時に、八雲さんが動いた。
これなら、私が動かなくても良いだろう。

「勝手?」

お姉さんの左肩めがけて、八雲さんの右手が勢いよく振り下ろされた。
骨の軋む音を響かせ、彼女は吹き飛ばされる。
でも、まだ手を抜いてるなぁ。
八雲さんはそのまま間髪入れずに、今度は眼帯のお兄さんの首を掴み宙吊りにした。
ぐうっと、苦しげな声が漏れている。

「勝手を振る舞えるのは 強者の権利だよ」

そう言って、八雲さんはさらに力を込めている。
彼、死んじゃわないかな、大丈夫かな。
少し心配した矢先、眼帯の彼は左足を振り上げ反撃にかかる。
靴先が八雲さんのアゴ下を掠る。
しかし、八雲さんはさほど気にしていないのか、ブンと腕を振り抜き眼帯の彼を壁にぶつけた。
壁が壊れてしまうほどの衝撃。
ただ、青年にそこまでの外傷が見られないのが不思議だ。
青年は壁にぶつかった後、すぐに八雲さんの左足の蹴りが入る。

「立つ?寝る?」

指を鳴らしながら、彼は問う。
前から思っていたが、ずいぶん変わった指の鳴らし方だ。
アレを真似してみた事はあるが、うまく鳴らないんだ。

「大人しくしたら今は痛い目見なくて済むけど...」

そこまで言ってから、言葉に詰まっていた。
なぜなら、青年の眼帯が外れていたから。
現れたのは、左目だけに発現している赫眼。
彼は、隻眼だったんだ。
皆が一同に固まってしまう。
その隙をついて、隻眼くんは八雲さんめがけて右ストレートを繰り出した。

『遅い』

思わず言ってしまった。
筋は悪くないが、いかんせん遅すぎる。
なんなくそれを避けた八雲さんは、今隻眼くんの背後にいる。
隻眼くんは、消えた事に焦りを示す。
そしてわざわざ赫子を出現させ、隻眼くんの腹を貫く。

「ど......こ...から...」

血反吐と一緒に弱々しく言葉を吐き出した。
そのまま、パタリと倒れ伏す隻眼くん。
それを見てしまったアヤトくんのお姉さんは、怒りを露わにする。

「テ...メェッ」

大きく飛び上がった彼女は、拳を振り下ろそうとした。
それを遮ったのは、アヤトくんだ。
彼は、お姉さんを殴りつける。

「弱いなトーカ。親父とダブるよ」

それを聞いたお姉さん、トーカという名前なのか。
トーカちゃんは、力強く拳を握りしめアヤトくんを睨みつけていた。

「...父さんは、あたしらの為に戦ったんだ...ッ」

「お前は何も分かってない!!」

その瞳は、赫眼だった。
彼女は本気だ。
そして、大きく広げた片側の羽赫はとても美しい。

「アラ綺麗」
『素敵だ』

私とニコ姐が同時に呟いた。
そして、アヤトくんも対するように赫子を出す。

「分かってないのはテメェだ トーカ」

アヤトくんは、トーカちゃんの攻撃を防ぎながら告げる。

「親父もお袋も死んだ」
「”弱いから“」

そうか、彼らもきっと失って来たんだ。
自身の弱さ故に。

「お前の”羽“じゃ どこへも跳べない」
「俺は違う。”喰種“が人間より”上“だって事を
ゴミどもにわからせてやる」

アヤトくんは怒っている。
誰に対しての怒りかは分からない。
怒りに任せて、お姉さんを攻撃しているように見える。

「ーお前は... 地面に這いつくばってろ」

トーカちゃんは、倒れたまま動かない。
傷は浅そうなので、死ぬことは無いと思うけど。

「アヤトちゃんカックイ〜」

確かに、とても格好良かった。
ニコ姐がアヤトくんに触れようとするが、手を払いのけられていた。
触るなクソカマ、などと言われている。
彼は、隻眼くんをバッグに詰めろと言った。
どうやら、お姉さんは置いていくみたい。
八雲さんにも、帰るよと言われたので、この場はおしまい。
さっき、タタラさんに電話しているのを聞いていたが、久しぶりにノロさんにも会えるみたい。
それに、電話口で敬語を使う八雲さんはレアだ。
見ていて面白い。
八雲さんに笑顔を向けていると、気持ち悪いと言われた。
でも、その後手を繋いでくれたので不問にする。
みんな仲良くとは行かないが、無事に帰宅できた事は嬉しい。
鞄に詰まっている隻眼くんには、少しだけ申し訳ないと思いつつ。

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