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看取



〔side 悠那〕

▼△▼
翌日、八雲さんとニコ姐と一緒に、20区を訪れていた。
抜群に良いニコ姐の鼻を頼りに、ある喫茶店へと行き着いた。

『あんていく...?』

どういう意味なのかと八雲さんに問えば、彼にも分からないらしい。
喫茶店〈あんていく〉は、外装が綺麗で、内装も雰囲気がよく落ち着く。
私はこういった店で珈琲を飲んだ事は無いが、どう考えても美味しいだろう。
ブレンドコーヒーを三つ注文すると、可愛らしいがどこかそっけない感じの女性店員が運んできてくれた。
にしても、このお姉さんはどこかで見たことがあるような...。
お姉さんの雰囲気というか、髪や目が誰かに似ているような気がした。
そんなところで考えを止めて、コーヒーを啜る。
運ばれてきたブレンドコーヒーは、実際素晴らしく美味しかった。

『すごい、美味しい...』

「あら美味しいわぁ ここのコーヒー...」

「だねぇ」

うん、本当に美味しい。
それはもう、自然と顔が綻ぶほどに。
久しぶりのリラックスタイムを満喫していた時、上の階から、けたたましい物音がした。
店員の女性は、慌てて音がしたと思われる部屋に向かって行った。
それを見た八雲さんとニコ姐は、無言で立ち上がり彼女の後を追う。
私も、同じように続いた。


▼△▼
女性店員が何かを言っているのが目に入る。
その店員の後ろから、部屋の中へ。

「あら〜ン」

『ありゃ、アヤトくんだ』

目の前には、青桐の樹に所属しているアヤトくんと、彼にそっくりな女性店員。
でも、両者とも剣呑とした雰囲気だ。
こちらには気づいている様子だが、あまり気にしてくれない。

「お姉さまが居るとは聞いていたけど店員の子だったのね。二人揃って美形ねェ」

ジェラスだわ、とニコ姐が言った。
そっか、彼女はアヤトくんのお姉さんか。
お姉さんを見た時の既視感に納得した。
でも、アヤトくんに兄弟がいるなんて初耳だ。

「やあアヤトくん。待ったよ」

アヤトくんのお姉さんは、驚いた様子で振り返る。
対しアヤトくんは、チッと大きな音で舌打ちをたてる。

「よくここが分かったじゃねーか ...”ヤモリ“」

アヤトくん、すごく機嫌が悪そう。
ていうか、みんな八雲さんの事そうやって呼ぶんだよね。
ヤモリじゃない、名前は八雲さんなのに。
でも八雲さんはヤモリって呼ばれるの嫌いじゃないらしいから、あんまり言えないんだけど。

「全部”ニコ“のおかげ。鼻が利くんだ」

「そうよぉ。匂いを辿れば一発バッコン」

その後もう一言何か言っていたが、聞き取れない。
でも、少し八雲さんが嫌そうな顔してたな。
向こうでお腹を押さえてるガタイの良いお兄さんは、何でと呻いている。
そばには、ガスマスク三人衆もいる。
私達が現れたのが不可解らしい。

「リゼさんはここにはいねぇ...!」

大きな声で、何かに怯えたように叫ぶ。
来ても意味がないと。
それを遮るように八雲さんは告げる。

「ん?合ってるよ万丈くん」

「そうよぉヒゲマッチョ」

バンジョー?ヒゲマッチョ??
一体、彼の名前はどちらなのだろうか。
ニコ姐は彼のことをヒゲマッチョと呼んだが、お髭はニコ姐も同じだ。
ただこんな事言うとめちゃくちゃ怒られるんだろうなぁ。

「捕獲命令は【リゼ本人】あるいは...

【リゼの匂いがする奴】...って事なので」

視線は、眼帯の青年の方へ。
あぁ、確かになんだか不思議な香りがする。
同じなのに同じじゃない、そんな感じ。

「彼でビンゴ」

とっとと連れかえっちゃいましょう、と言った。
そっか、この眼帯のお兄さんを連れ帰るのが今回の指令だった訳だ。
だからずっと誰かを探していたんだ。
私は、八雲さんの背から顔だけ覗かせ、眼帯の彼に向け言った。

『一緒に帰ろうよ。ねぇ?』

眼帯のお兄さんは、目を見開いたまま固まっていた。

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