05:手に残る温かさは 簡単には拭えない




「ちっ、なんでてめーが」
「……。」

新学期早々、銀髪の煙草臭い不良にケンカを売られた。

「獄寺くん、そこどいてくれる?じゃないと遅刻する」
「ああ゛?誰がてめーの言うことなんざきくか」
「……。(うぜぇ)」

こんなことになった理由など、ひとつしかない。例の、ファミリー(仮)の件でだ。あの赤ん坊、どうやら本当に伝えたらしい。マジで何してくれてんの?って感じだ。先ほどから自分の行く手を阻んでくる男のこともあって、不快感は増すばかり。ちらほらと行き交う登校中の生徒たちが訝しげにこちらを見ては過ぎ去っていく。薄情な。なんてことのない一般生徒が不良に絡まれてるんだぞ、助けろや。

「お前、リボーンさんに言われてボンゴレに仲間入りしたんだってなぁ?」

じっ、とこちらを睨みながら、舌打ちやら小言やらをもらしていた男がようやく本題を切り出してきた。しかしそれは、はなはだしい間違いだ。あの男が彼になんと伝えたのかは知らないが、変に誤解されてしまっては困る。特にこの男は、沢田やファミリーのこととなると思い込みが激しくなる節があるだから。それとこんな人目のある場所でその件の話をするのはやめなさい。変な噂が立つでしょうが!

「誤解だよ…。私は、」
「テメェみてーな 冴えねぇ奴を、リボーンさんが本当に認めたとは思えねー。どうせてめーの方からリボーンさんに媚び売ったんだろ」

話聞けよ。「カッコ仮なんてふざけた言い回しがその証拠だ」なんてがん飛ばしてくる奴に、おもわず暴言を吐きそうになるも、ぐっとこらえる。こんな所で彼の機嫌をさらに損ねるのは、あまり得策だとは言えない。おそらく甚大な被害がでることになってしまう。自身の心を何とかなだめ、再び誤解を解こうと口を開いた。

「いや、だからそれは、
「それをリボーンさんがわざわざ俺に伝えてきたってーことはだ。これは…“10代目に近づこうとする虫は、お前の手で処分しろ”という右腕としての試練とみた!!」
「………は??」

くわっと目を見開いた男の手には、奴ご愛用のダイナマイトがしっかりと握られている。

【ばくだんこぞう の ハヤト が しょうぶを しかけてきた】
緊迫するBGMをバックに、そんなテロップが頭の中に浮かんだ。

どうしよう…。薄々思ってはいたが馬鹿なのかこいつは。ちらりと見た手元の導火線は、今まさに点火されようとしている。……やっぱり馬鹿だったか〜!

「獄寺くん…」
「はっ、いまさら弁解しようがもうおせぇ…。果て
「あれ沢田じゃない?服着てないけど」
「うおぉぉぉおおお!!死ぬ気で登校するー!!」
「なっ!10代目!?」

偶然にも、奇跡的すぎるタイミングで獄寺の後ろを駆け抜けていった沢田を指させば、驚いたように振り返った奴の手に持つモノは、点火寸前で火元から離れた。今、こいつと話をつけるのは無駄。なら逃げるが勝ち。…うん、それがいいい。沢田に気を取られているうちにと、男の脇をするりと抜けようと試みる。

「あ、コラてめぇ!!待ちやがれ!!」
「いっ!!」

が、それにすんでのところで気がついた男は「逃がすか!」といった様子で勢いよく私の腕をつかんだ。そう、よりによって“左腕”を…。

「話はまだ終わってねぇ!何勝手に―」
「獄寺くんは馬鹿なの???」
「ああ゛!?」

忘れかけていた腕の痛みに、それまで理性的であろうと努めていた意思がカタンと傾く。どうやら彼に対する鬱憤は想像以上に溜まっていたらしい。さらに腕をつかむ力が強まったが、そんなことは気にもせず奴の方へと目線を向けた。

「まずひとつ。いま君が掴んでいるの腕は、つい2か月前 君の行為が原因で骨折した腕なんだけど、そのことに対しての謝罪は?」
「…ハァ??」

何言ってんだこいつ?と言わんばかりの顔をする男に、心の中で盛大なため息をついた。少しでもこの男にそれを期待した私がどうかしていた。もうこのことは忘れることにしよう。そう勝手に解決し、次の話へと移る。

「ふたつめ。マフィアなんかに巻き込まれて迷惑こうむってんのはこっちの方。何の確証もなしに主観だけで妄言を吐くのはただの馬鹿」
「んだとてめぇ!!」

怒りのまま、といった具合で今度こそダイナマイトが点火される。男の手元でじりじりと短くなっていく導火線をみて、私はまた、話をつづけた。

「みっつめ…。もし仮に君の推察通りだとして私を処分するのが正しかったとしても、こんな人の通る場所で決行するのは愚かだよ。ましてやそんなもので…。私をやれたとしても目撃者は多くなるし、すぐにやれなかった場合、煙と人に紛れて逃げられるだけ。余計 沢田に危険が及ぶことになるし、彼は無関係な人を巻き込むことは絶対に嫌う」

男が手に持っていたものを ジュッと自分の手のひらで消せば、何かを言おうとしていた奴の口が驚いたように固まった。

「沢田のこと、本当に慕っているのなら、もう少し沢田の気持ちに寄り添うべきだよ。少なくともいま君がやろうとしていたことは沢田のためじゃない。他ならぬ君のエゴ。それって本当に右腕として正しいこと?」

ようやく緩まった腕を振り払い、数歩 彼から離れる。彼からの反論は、ない。

「…じゃ、用が済んだならもう行くね。
……君もそろそろ行かないと遅刻するよ」

背を向けて、振り向きもせずそう告げる。背中に視線を感じるも、彼の口がまた開くことはなかった。


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