誰かが悲鳴を上げるような声が聞こえる。誰かがすすり泣くような声が聞こえる。
地に横たわる体は鉛のように重く、あたりは自身からこぼれる赤黒い液体でぬれていた。
これはなんだ?わたしじゃない。
(ちがう、これがあなたの”役”でしょう?)
このままじゃ嫌だ。
(このほうが楽でしょう?)
さとすようなその声が、優しいはずなのにやけに耳障りで―。
まだ死ねない。
このままただ死を受け入れるだけなんて馬鹿げてる。
まだ生きたい。
“わたし”はまだ、“私”自身の意思で生きていない。
今にも消えてしまいそうな光に、必死の思いで手を伸ばす。
終わりたくない。諦めたくない。
そうもがき続けた腕が、ようやく、それを掴んだ。
嗚呼そうか。
これはいつかの『最後』だ。
パチンッと何かがはじけるように、頭の中を駆け巡った”今世じゃないものの記憶”。
後悔はないはずなのに、生ぬるいものが頬を伝った。
きっともう、この夢を見ることはないだろう。
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