リング
「おい」
「なーに」
「お前してんの、俺の?」
「は?何が?」
「これ」
「えー何よ」
夜ご飯作ってる途中、後ろからルキ君に呼ばれる。
今ちょっと肉と野菜炒めてんだけど。
目離せないんだけど。
何か要領を得ない言葉に苦笑い気味に振り返る。
そしたら、俺が持って返って来た雑誌片手に外着のままのルキ君が立ってて。
俺のソロインタビューの記事を見て、ルキ君の言葉を反芻して、あぁ、と思う。
そしてまた、調理中の食材へと目を移す。
「あーそれね。ルキ君のだよ。前に雑誌でしてたでしょ。格好良かったから借りた」
「あっそ。また似たようなの買ったかと思った」
「ま、趣味似てるしねー。秘かに同じとか、ペアリングしてるみたいで良くね?本物のペアリングはして撮影する訳にもいかねーしさー」
「確かに」
そう言ってルキ君は、リビングに戻るでも無くシンクにもたれて、まだ俺が載ってる記事を読んで。
チラッとその表情を見ると、口元緩んでる。
可愛いな。
色々と。
お互い、事務所から貰った雑誌は持って返って来るからかなり雑誌はたまってて。
処分する気もねーけど。
「つーか敏弥さん雑誌撮影の時って普段と全然違って格好良いよな。キリッとしてて」
「…それはどう言う意味かな?」
「まんまの意味だろ。つーかコレとか3X歳なのに童顔過ぎ。超可愛い」
「うっせぇよ。ルキ君なんて雑誌は誰だよってぐらい格好付けてんじゃん。別人だよ」
「格好良いだろ」
「まーね。ってかルキ君こっち来たならついでにサラダ作って」
「えー。今日の当番お前じゃん」
「いいじゃん。俺今手が離せねーの。夕食食べんの遅くなるよ」
「しゃーねーなー」
溜め息を吐いて、ルキ君は読んでた雑誌をテーブルに置いた。
シンクで手を洗ってて、その指は指輪だらけ。
ルキ君は寝る時以外ずっとしてる派だから。
趣味が似てるから、結構借りたり、貸したり。
その中には2人で選んで決めたペアリング。
2人共バカップル思考だからって理由もあるけど、ちゃんと付き合うまではお互い遊びが酷くて。
誓約の意味を込めて、一緒に選んで買ったヤツ。
自分の左薬指にしてるのを見て。
まぁこんなモンで、人間縛り付けられるとは思ってねーけど。
実際、そうだし。
冷蔵庫からサラダにする為の野菜を取り出すルキ君から視線を外して。
今日はハヤシライス作る予定だったから、野菜と肉が炒まったかなって所でブイヨンベースを入れる。
煮詰めるまで時間はあるんだけどね。
隣でサラダを作ってるルキ君の後ろの棚を開けて、大皿とサラダ用の小皿を取り出す。
ルキ君が全部揃えた食器。
格好良いけどね、黒だから料理栄えるし。
2人分の皿を置いて鍋の中を見ると、まだかなーって感じだった。
から、ルキ君の後ろに回って背中からぴったりくっついて腹に腕を回した。
「…手ぇ離せねーんじゃねーの」
「ん?離せ無いよ?今まさにそうじゃん」
笑いながら言うルキ君は、サラダ作ってる。
ちょうどいい位置にある、ルキ君の頭に顎を乗せて。
ちっせぇ。
あーワックスの匂いする。
「甘えんな馬鹿デカい図体して」
「悔しかったらルキ君も身長伸ばしたら?」
「お前が縮め」
「はは、無理無理」
そんな会話をしながら、ルキ君越しに半分に切られたミニトマトを手に取って、口に運ぶ。
「あ、食うなよコラ」
「いーじゃん」
「つーかルー入れろよお前もー」
「わかってるわかってる」
「退けよ刺すぞ」
「やーだー」
入れろ、って言いながらルキ君は自分でやっちゃってる。
結局、ルキ君が夜ご飯仕上げる事になって。
俺はルキ君の背中にくっついたまま一緒に移動する。
ルキ君て結構神経質だから、やる人いねーと自分で全部やっちゃうってタイプなんだよねー。
そんな事を思いながら、途中まで俺が作ったハヤシライスがルキ君の手によって仕上げられてくのを見て。
テーブルの上に置かれた俺のインタビュー雑誌を見やる。
ルキ君のを付けて撮影するって単なる自己満。
でも、こんな風にラブラブな生活表してるって。
そう思わない?
END
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