パラドックス
「何やそれって同じモン着とっても着る人間によって全然イメージちゃうな」
「え?何の話?」
「それ。ジャージ。京君と敏弥お揃いやん」
「あー、そうだね」
「なん、京君が買っとったん欲しなったん?」
ツアー中。
ホテルから会場へと移動して、楽屋でケータリングの軽い昼食中。
楽屋の中でメンバー同士、顔合わせて飯食ってる状況って今更ながらちょっと笑える。
遠征中でもなきゃ、こうして5人で食事する事なんて滅多にねーし。
まぁ薫君や堕威君とは飲みに行くし、心夜はルキ君がチワワ飼った時から色々聞いたりして、何だかんだでコロンとみゆゆと遊ばせたりしてるしね。
遠征中は部屋に引き込もって出て来ない、俺の隣で食事をしてる京君の方に視線をやる。
確かに同じデザインのジャージ。
同じの持ってても一緒の時に着なきゃお揃いにはならないけど、図らずしも今日は揃ってしまったらしい。
京君はチラッと俺の方を見て、感心なさげにまた食事を進めた。
俺は薫君の方に向き直ってにっこり笑う。
「ってかこれルキ君のだから」
「あ、そうなん?」
「そー。ルキ君が、誰かさんの事大好きだから同じジャージ買ってんの。ムカついたから奪って来た」
「ルキ君と敏弥やったらサイズ違うやろー」
「まぁねー。あの子下手したらレディースサイズ着れちゃうからさー。でもジャージでかいから平気」
「ふーん」
さすがに下は長さ違い過ぎて穿けないけど。
何セットが持ってる、京君がよくライブで着てたジャージ。
どんだけファンなんだよお前って感じだよね。
虜ちゃん達と同じ事してどうすんのって。
…まぁ、ルキ君は京君に話もしてくんねーから、仕方ねーのかも。
その京君は黙々とご飯食べてるだけ。
別にいいけどねー。
京君とルキ君が仲良く喋ってんのとか想像つかないし。
まぁでも、他の男に夢中になるの見てんのはいい気しねーし。
ムカついたから、お気に入りっぽいよく着てたジャージ勝手に持って来た。
「それにこれ、寒くなって来たからよくルキ君着てたし、ルキ君の匂い移ってんだよねー」
「うん、わかった。もうえぇわ」
「何でだよちょっとは話聞けよ」
「お前の惚気話長いねん」
「因みにコロンもルキ君の服の上でよく寝てるよ」
「…何かルキ君の苦労が目に浮かぶ気がする…犬2匹世話しとる、みたいな」
「何で?ルキ君の方が我儘だっつの。そこが好きなんだけどねー」
薫君の言葉に笑って用意されたお茶を飲んでると、隣に座ってた京君がいきなり立ち上がった。
椅子が動く音がして、会話が止まる。
京君の方を見上げると俺の方は一切見ないでその場から立ち去った。
「京君、」
「………」
薫君が話し掛けようとしたのを遮る様に、楽屋の扉を乱暴に閉めて京君は出て行った。
そこから視線を戻して、また食事を再開。
薫君はちょっと心配そうにしてたけど、まぁ大丈夫でしょ。
フラストレーションでも溜めてライブで発散すればいいよ。
なんて。
それが出来てれば俺の所に来ないだろうね、京君は。
昔の様な不安定さは無いのに、昔よりも京君は俺に必死な気がする。
気に食わない後輩にメンバー取られたのが、プライド許さなかったのかなって最初は思ったけどね。
一応、一番仲良かったから。
京君てあんま心開かない分、開いた人間には依存するタイプだよねー。
ルキ君も、京君の何処がいいんだか。
ルキ君が好きな、京君を犯すのは好き。
俺の下でみっともなく馬鹿みたいに喘いで腰振って。
愛がないセックスに溺れる様は滑稽で。
そんな京君と身体を重ねる俺は、愛し愛される事を覚えた筈なのに昔の俺に戻ったみたい。
京君に怒る権利なんて無いよ。
怒れるとしたら、ルキ君だけ。
テーブルに肘を付いて、ジャージの生地から香るルキ君の残り香が鼻先を掠めた。
会いたいな、ルキ君。
誰も入る隙が無いくらい、一緒に居れたらいいのに。
END
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