耳元で聞こえる声



ライブも終わって、軽く反省会と言うか打ち上げみたいな感じでメンバーとスタッフで繁華街に出て飯食ってホテルに帰宅。

疲れた。

もー次どこ行くんだっけ?

そろそろ自宅に帰って寝たい。


生意気言っても何だかんだくっついて来るルキ君のちっさい身体とか。
尻尾振って構えと甘えて来るコロンとか。

抱き締めて何も考えずに寝てー。


何て、無理な事だけど。
それはそれで幸せだけど、やっぱしんどくても身体に鞭打ってライブをする。
その意味はあると思うんだよね。


たまに気を抜くと我が家が恋しくなるけどさー。


やっぱ北海道は寒くて、ホテルの小さな浴槽に湯を張って風呂に入って。
髪をタオルで拭きながら部屋に戻って備え付けの冷蔵庫から缶ビールを1本取り出してプルトップを開ける。

一口飲みながら椅子に座ってテーブルに置いた携帯を手に取ると、メールが何件か入ってて。
その内の1件はルキ君から。


読んで笑みを浮かべて、リダイヤルからルキ君の番号を呼び出して電話を掛けた。
夜中になる時間だけど、ルキ君ならまだ起きてる筈。


『はい』
「あ、ルキ君、今大丈夫?」
『平気。ライブお疲れ様』
「うん」


聞き慣れたメロディーコールの後、心地良い低音が受話器から耳に届く。


『ライブどう?』
「ん、いい調子だよ」
『そっか。予定合えば関東方面でも行きてーんだけどなー』
「ルキ君トコもライブあるしね。忙しいでしょ」
『そうなんだよ。また地方で連続でライブとか重なったらなー』
「あはは。そしたらお互い気兼ね無くライブ観えるよね」
『そうそう』


ビールをゆっくり飲みながら背凭れに身体をべったり預けてルキ君と会話。

何日も会わないのはツアーが始まれば当たり前だけど。
電話越しのルキ君の声に超癒される。

この低音、好き。


『飯なに食ったの』
「海鮮食べて来た。北海道の海鮮て超美味いよね。東京で食べてんのと全然違う」
『あー…だよな』
「蟹でも買って送ったげよっか」
『…1人しかいねーのに蟹なんてどうやって食うんだよ』
「カニ鍋とかあるじゃん」
『鍋の前に1人無言で蟹食うのかよ。うわ、ありえねー』
「それやってたらルキ君相当ヤバいよね」
『るせーよ。敏弥さんが言ったんだろ』
「だって蟹が美味しかったからルキ君にもお裾分けしてあげよーって言う俺の親切心じゃん」
『おぅ、なら送れ。敏弥さんいねーし、メンバー呼んでカニ鍋すっから』
「じゃ、送んなーい」
『…お前な』


電話越しでもルキ君が苦笑いしてんのがわかった。

いい加減、ルキ君だって俺の事わかってる。
俺がルキ君の意地悪な癖を知ってる様に。


だからそんな事、する気もないのに言うんだろ。


蟹ね。
本気美味しかったから買って帰りたいんだけど、ルキ君と一緒に食べるのはいつになるのか。

冷凍庫にはさすがに丸々一匹は入んないだろうし。
足だけでも買おうかなー。


「足だけ買って送るよ。そしたら冷凍庫入るよね?」
『あー…大丈夫なんじゃね?つーかそんな蟹食いてーのかよ』
「冬は鍋だろ、鍋。ルキ君と鍋つつくんですー」
『はいはい。じゃ、蟹待ってっから。蟹だけ帰って来いよ』
「えっ?」
『は?』
「…ルキ君、蟹より大事な人がいるだろ。帰って来て欲しい人が」
『はは、蟹のが大事』
「ひでー!もう帰んねーぞコラ!」
『おぅ、じゃ、家の鍵変えておくから』
「ルキ君の馬鹿!」
『誰がだよ。はいはい、大好きな敏弥さんが帰って来るの待ってます』
「心が込もってねぇ…」
『我儘だな』


お互い笑いながら深く息を吐く。

お互いツアーとかで会う機会もなかなかないだろうけど。
こうして電話して他愛ない話をしてる事が、好き。


「コロン元気?」
『元気元気。また寝顔の写メ送っから』
「楽しみにしてるわ」
『敏弥さんも、ライブ頑張れよ。また行ける日あったら連絡する』
「うん、来てよ」


残りのビールを全て煽り、癖になった缶を潰す事をすると。
電話口でルキ君が笑って、飲み過ぎんなよって言った。


ライブは楽しくて疲労困憊だし、いい感じにアルコールも入ったし。
好きなルキ君の声で、もう眠くなって来た。


髪の毛乾かさなきゃとか、明日早いんだからとか色々思う事はあるけど。

お互い喋るのが好きで話題が尽きないルキ君との電話は切る気がしなくて。


耳元で聞こえる、ルキ君独特の低い声に顔が見えなくて聴覚が敏感に拾おうとする。
やっぱ声好きだなって思った。

ルキ君だから、なんだろうけどね。



END


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