お互い狂気一歩手前の愛してる



「ただいま」
「お帰り。サイン会どうだった?」
「もう拘束時間長くて超疲れた。腱鞘炎なるかと思った!」
「あはは。サインて何回も書いてるとゲシュタルト崩壊するよね」
「そうそう。『あれ?俺のサインこんなだったっけ?』って思う」


サイン会終わって、皆で飯食って帰宅。
部屋に入ると、敏弥さんも帰ってて。

ソファに座って、俺の顔を見て笑う。
鞄を置いて敏弥さんの隣に座りながらベッタリと寄り掛かった。

そしたら、敏弥さんの腕が回って来て肩を抱き寄せられる。


サングラスを外したら視界がクリアになった。
まぁ俺カラコンしてて全く目は見えてねーけど。

近くにいる、敏弥さんの顔ぐらいは判別出来る。


「ご飯食べて来たんだよね?」
「おぅ。敏弥さんは?」
「俺も食べて来て今さっき帰って来た」
「そっか。何食った?」
「うーん…ビールと枝豆?」
「おま、それ飲んで来たっつーんだよ」
「あはは。ルキ君もまた一緒に飲みに行こ」
「えー敏弥さん酔っ払うとウゼーんだもん」
「気の所為、気の所為」


そう言って顔を上げると、敏弥さんは軽く俺の唇にキスして来た。

確かに少し、アルコール臭い甘ったるい味。


「手、痛くない?」
「痛かった。スケジュールもタイトだし、暫くサイン書きたくねー」


敏弥さんは俺の右手を取って、手の平を揉んで来る敏弥さんの指。
その力加減が、限界までサイン書き続けた疲れた手に心地好い。


「ルキ君のサインってどんなの?」
「あー…?えー…と、紙あったっけ、」


敏弥さんに言われて、ソファの脇のゆかに置いた自分の鞄を引き寄せる。

右手は敏弥さんにマッサージされたまま。


鞄の中を漁って、ネタ書き溜める為に持ってる手帳を取り出す。
敏弥さんの手を離して、その白紙のページに自分のサインを書く。

それを敏弥さんの方に差し出した。


「これ」
「うわ、何か派手だね、ルキ君のサイン」
「そう?ずっとこんな感じだからなー」
「書くの大変そう」
「敏弥さんのは?」
「俺?俺はー……はい、こんな感じ」
「シンプルじゃん」
「楽でしょ」
「確かに」


何かお互いのサインの見せ合いって、ハタから見たらバカな事してんなー。


「そう言えばさ、マライアキャリーの旦那って愛してんならマライアの名前の刺青入れろって言われて入れてんだぜ。背中にでっかく」
「へー…」
「だから敏弥さんこのデザインで刺青入れろよ」
「ヤだよ。これルキ君のサインじゃん。本名じゃねーだろ」
「本名だったら入れんのかよ」
「入れるよ。そん時はルキ君にも俺の名前彫らせるけどね」
「うわー、痛いな敏弥さん」
「ルキ君が言ったんだろ。愛してんなら彫れるよね?」
「そりゃーもちろん」
「そう」


そう言うと、敏弥さんはにっこりと笑う。

お互い独占欲強いもんな。
信用してないって訳じゃなく。

そう言う、束縛や独占する言葉を吐かれるのがお互い好きなだけ。


お互いがお互いを独占したくて、それを知ってるから安心するし束縛されんのも嫌じゃない。


サインが書いた手帳が、敏弥さんの手に寄って離されて。
ソファの背凭れに背中を預ける形で両手を敏弥さんに拘束される。

ぼやける視界の中、見上げれば敏弥さんの顔が近付いて来て。
ゆっくり目を閉じると唇が柔らかく合わさった。


「…刺青とかってさ」
「うん」
「一生物じゃん」
「うん」
「だから、ルキ君が愛してるなら彫れって言うなら、誰にも見せない所に入れようよ、お互い」
「そうだな」


それは敏弥さんからの『愛してるなら自分の名前も彫れるよね?』って言う言葉。

いーよ。
愛してるから、敏弥さんの事。


嬉しそうに笑う敏弥さんの顔が、すげー好き。


ちょっと愛が深すぎる所とかね。
可愛いじゃん。



END


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