崩壊4/京流+玲
ルキと京さんは、このままずっと一緒にいるもんだとばかり思ってた。
それがこんな終わり方って有りかよ。
荷物を取りに行った家で、2人がどんなやり取りをしたかはわからないけど。
荷物を持たず、京さんに無理矢理外に出されたルキを見るといい結果とは言えなかった。
玄関のドアに縋り付いて泣くルキを宥めて、自分の車に乗せる。
事務所から当面ルキの住む場所として指定されたホテルで、スタッフが1人見張り役として付くらしい。
どんな状態だよそれ。
ルキは何も悪い事してねーのに。
助手席に座ってただ泣き続けるルキを1人にしていいのかも迷うけど。
俺んちに住まわせるっつったんだけど、2人の関係を知ってて容認してたのがダメだったらしい。
苛立って舌打ちをしながら、言われたホテルに着く。
そこには先にスタッフが来ていて。
そのまま、ルキの携帯は没収された。
これからはスタッフを通して仕事の連絡をするらしい。
部屋に案内されるのを一緒に付いて行くと、俺は帰るように促されたけどルキが俺の腕を掴んで来たから説得して、俺とルキだけで部屋に入る。
そこはツインの部屋で。
マジで監視付きかよ。
何とかして俺が一緒に泊まるように出来ねーかな。
「………ごめ、ん」
「え?」
「……俺…、京さんと…、別れ、たく、無かったから、ガゼット、辞めるとか、言っ…!!」
少し落ち着いたかと思ったけど、また泣き出しそうなルキの身体を抱き寄せる。
そのまま、ルキは俺の服を掴んで泣いた。
「いいよ。お前が京さん好きな事は、よく知ってるから」
「〜〜ッ、でもっ、」
「そりゃールキが居なきゃ成り立たねーけど。京さんに盲目なのは今に始まった事じゃねーからな」
宥めるように背中をポンポン叩いて。
京さんの名前を呼ぶルキの声を聞く。
本当に、何でこう言う時だけ、俺らのバンドに配慮すんの。
昔は全然関係無くルキを虐めてたじゃん。
そんなにルキを尊重するほど、大事なら何で。
何で、手放すの。
子供のように泣きじゃくるルキの背中を撫でる事しか出来ない、無力な自分に腹が立つ。
暫く泣いて、落ち着くとベッドに座らせる。
目が充血して空虚を見つめるルキの足元に座り込む。
「…ルキの物、全然ねーから。下着、とか買って来るけど、いい?」
静かに頷いたルキを見て、立ち上がる。
ルキを1人残して、部屋を出るとドアの外にスタッフが立っていて。
暫く1人にしてくれ、と頼んでホテルを後にする。
下着は買えばいいけど、服とかはそうはいかねーし。
住んでたマンションに取りに行きたい。
そう思って、京さんがいるマンションへと車を走らせる。
ルキの荷物を取りに来た、と言っても。
ルキの携帯は取り上げられてるから京さんに連絡は出来ねーし、部屋にいるといいんだけど。
慣れた部屋番を押して、呼び出し音が鳴る。
『………何や』
暫くすると京さんの声が聞こえて来た。
「すみません、ルキの荷物を取りに来たんですけど…」
『…あぁ』
プツッと回線が切れて、エントランスの扉の鍵が開く音。
幾度と無く来た廊下、エレベーター、扉前。
もうこの中にルキはいない。
インターフォンを押すと、さっき見た京さんが玄関のドアを開けた。
いつも落ち着いた雰囲気はあるけど、今は覇気が無い。
「すみません、ルキの当面の服とか持っていきたいんですけど…」
「……勝手にしー」
「…お邪魔します」
「クローゼット寝室やから」
「あ、はい。キャリーか何かありますか?」
「…さぁ、るきが片付けとんちゃう」
「そうっすか…」
ルキに聞いてくればよかった。
そんな精神状態じゃないだろうけど。
寝室とか初めて入るな、とか思いながら京さんに言われた通りクローゼットを開ける。
服がズラリと並べられてあって、その下に収納ケースやいつも遠征時に見かけるキャリーもあった。
これに入れていこう。
でもどれがルキの服なんだ。
「……京さん、ルキの服って分けてますか」
「…基本左側がるき」
「わかりました」
「…………」
「…………」
何故か京さんはそのままじっと俺の動作を眺めるように立ってて。
まぁ、間違って京さんの服持ってったら言ってくれるだろ。
そんな事を思いながら、適当にキャリーに服を詰めていく。
「………るき住む所決まったん」
「あ、まだです。暫くはホテル住まいで…」
「…ふーん。僕引っ越すから。るきの荷物大量にあるんどうにかしたいんやけど」
「…引っ、越す、ん、ですか?」
「うん。つーか、あいつ買い物し過ぎやねん。半分以上るきのんちゃう」
「………」
「家電とか調理器具とか絶対僕使わんで」
「………」
「やから早めに引き取りに来てな」
「………」
京さんが、あまりに普通の、今までと同じような言い方で喋るから。
この人にとって、そんなあっさり。
終わらせられる関係だったのか、って。
泣きじゃくる、ルキの顔が浮かぶ。
「……な、んで」
「は?」
「何でそんな簡単に切り捨てられるんですか」
「………」
「ルキがあんなに別れるの嫌がってたのに、何で…!!」
「………簡単やと思うん」
「…っ、」
「2人の思い出しかないこの部屋で、僕1人で過ごせ言うんか」
「………」
京さんが真顔になって、抑揚の無い平坦な声で言う。
「未練なんて、しんどいだけや」
吐き捨てるように言って、京さんは寝室から出て行った。
そうか。
切り替えられるんだったら、部屋を変える必要は無い。
ルキ。
ちゃんと想い合ってたのに。
こんな事ってあんのかよ。
ルキの服を粗方詰めて、京さんの姿を探してリビングに行くとソファーに座って煙草を吸ってる後ろ姿が見えた。
「……あの、帰ります。ありがとうございました」
「…ん」
「あ、すみません、ルキ今携帯取られてて、連絡先わからないんで教えて貰っていいですか?荷物取りに来るんで」
「……えぇで。携帯貸して」
「はい」
京さんに近付いて俺の携帯を渡すと番号を打ち込む。
そしてそれを投げて寄越された。
「ありがとうございます」
お礼を言って、お邪魔しました、と玄関へ向かう。
大きめのキャリーを持って、玄関から出ようとするといつの間にか来ていた京さんに後ろから呼び止められた。
「…なぁ、」
「はい?」
「るきが僕の言葉、聞けるようになったら、言うたって。『楽しかったで』って」
「ッ、自分で言ってやって下さいよ…」
「えぇんや。もう終わった事やから」
「でも、」
「るきん事、宜しくな。傍におったってや」
「……もう、可能性は無いんですか」
「無いで。自分のバンド、大事にしとき」
「………わかりました」
「ほなな。荷物の件、また連絡するわ」
「はい、お願いします」
そのまま、玄関のドアは閉められた。
もう二度と、ここからルキが笑って出迎えてくれる事は無いんだと。
その現実が重くのし掛かる。
自分が失恋した訳じゃねーのに、すげー苦しい。
確実に、2人が違う道を歩む事が。
時が戻らねーかな。
そんな馬鹿な事を、考える程に。
終
20210321
[ 35/37 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]