その後の2人/敏京
「京君そっちの頂戴」
「ん」
「ありがと」
「敏弥、それ美味い?」
「美味しいよ。食べてみなって」
「うん」
京君と付き合って二週間。
仕事も忙しいし、特に今までと大きな変化はなくて。
今までみたいに一緒にご飯食べて、お互いの家行き来して。
一緒にいる時間がかなり増えた感じだけど。
今日も仕事帰りに夜中まで空いてる居酒屋で京君と晩ご飯。
サラリーマンの酔っ払いやらがいて、騒がしい感じだけど。
逆に紛れ込める感じだから、そう言う雰囲気は好き。
目の前が大好きな京君なら、尚更ね。
生活に変化はないけど、心境の変化はあって。
あー俺、京君と付き合ってんだなーって。
そう考えると、すげー嬉しくなんだよね。
「…何笑っとん。キショいで」
「ひでー。だって京君と付き合ってるって思ったら嬉しくて」
「ふーん」
「この二週間幸せ過ぎて俺死んじゃいそう」
「そらアカンやろ」
「やー嬉しいじゃんか。ふふっ」
「ほんまキショいわー」
京君も笑いながら烏龍茶を口に含んで。
独特の持ち方の箸使いで、俺が頼んだつまみを口にはこんだ。
「って言うかもう二週間経ったんや。早いな」
「まぁ仕事忙しかったしね」
「ふーん…」
京君は料理か何か一点を見つめながら考えてる様子。
ちょっと真剣なその表情に、不安になる。
「…もしかして、やっぱ嫌だったとか…?」
「や、そうやないねんけど」
京君は少し周囲に視線を向けて箸を置いて烏龍茶を飲んだ。
「あー…何かな。僕って敏弥との関係が気まずなるんが嫌で付き合ったんかなって思ってんけど」
「……うん」
「この二週間、別に嫌やなかったし。やっぱ楽しかった、し」
「…よかったー」
「うん、やからな、メンバーには言おうや。僕らの関係を」
「え?」
京君の言葉に一瞬だけ止まる。
京君の顔を見たら、真剣その物で。
言われた言葉を頭ん中で反芻する。
「言う、の?付き合ってるって」
「うん。嫌なん?」
「嫌じゃない、けど。いいの?」
「えぇよ。いつか気付くかもしれんし。男同士で付き合っとったって、どうこう言うメンバーやないやろ」
「…うん」
「敏弥と付き合っとんが、悪い事ちゃうんやから。寧ろそんな事も言えん仲なんかって感じやし」
「…うん」
何か。
京君がそう言う風に真剣に、俺との事を考えてくれてたんだって。
そう思うと目頭が熱くなって来て。
店内で泣くワケにもいかねーし、少し俯いて耐える。
好きで好きで、耐え切れなくなって告白して。
最初ダメかと思ってたのに付き合えるってわかって嬉しくて。
京君も、俺の事考えてくれてるって。
すげー、嬉しい。
「…お前ってそんな泣き虫やったん?」
「泣いてねー」
「はいはい、そうやね」
「京君のバカ」
「何やと糞ガキ」
京君は笑いながら、テーブルの下で俺の足を軽く蹴って来た。
痛いよって、俺も足で京君の足を小突く。
うん。
何か、幸せ。
「あーでも薫君何て言うかなー」
「なん、いつも思うけど、お前って薫君薫君言うよな」
「当たり前じゃん。どっからどう見ても薫君て京君の事好きじゃん。ちょー京虜じゃん」
「はぁ?」
「薫君に報告すんのが一番緊張する」
「別に普通やろ」
「京君はそうかもしんないけど、さぁあ…」
「はいはい。何なら今から報告するか?」
「は!?やだ!ちょっと待って心の準備が必要だから…!」
「嘘やって」
京君が携帯を開いたから、慌ててそれを阻止しようと腕を伸ばす。
京君は意地悪そうに笑って、携帯を持つ手を引いて避けた。
「もー京君!」
「はは、敏弥ホンマおもろい」
「意地悪」
「んー。まぁ、メンバーに報告って事でな。かしこまったりはせぇへんけど」
「ん、わかった」
「よし。今日敏弥んち泊まるで。ゲーム対決しよや」
「負けないからね」
「僕が勝つし」
またご飯に手を付け出した京君を見て。
目を細めて笑う。
本当に大好きだよ。
そんな風にちゃんと考えてくれる君だから。
終
20101026
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