貴方のする事/京流



夜明け前、仕事から帰って来て風呂に入って。


タオルを肩に掛けて、髪の毛を乾かさないまま、リビングの方でラグの上に座った。


コンポの電源を入れて、そこまで大きくない音で京さんの曲を聴く。


部屋の中が、重い音と大好きな声で満たされる。


基礎化粧品をテーブルの上に並べて、一つずつ付けて行く。


最近はメンズ物もいっぱい出てんだよなー。


そんな事を思いながら新しく買ったパックを顔に貼り付ける。


京さんまだ帰ってねーしなー。

いつ帰って来るんだろ。


まだ眠くねーし、朝飯っつーか昼飯になるけど仕込んでおこうかな。

俺は明日昼過ぎから仕事だし。


…何かもうバリバリ昼夜逆転してんなー。


ま、別にいいんだけど。


片膝を立てて、煙草を吸って。

コンポから流れる、京さんの声をボーッと無心で聴き入る。









「…うわ、何しとんお前」
「ッ、あ、京さんお帰りなさっ、あっつ!!」
「アホか」
「…うわーラグ灰で汚れたし。ショック」


いきなり声を掛けられて身体が跳ねた。

その拍子に、長くなった灰が自分の手を伝って下に落ちた。


あーもー灰とか綺麗に落ちんのかな。

汚れたし最悪。

黒いラグだけどさ。


そんな事を思いながら、ティッシュで灰を拾う。

声のした方に視線を向けると、仕事帰りの若干疲れた顔の京さんが呆れた顔で俺を見下ろしてて。


「きっしょい顔しとんな」
「え?あ、パックしてんの忘れてたヤベー」
「お前ホンマ気持ち悪いなー。いつもいつも何しとん」
「スキンケアです」


言いながら京さんは鞄を床に置いて。
俺の後ろにあるソファに座りながら溜め息を吐く。


うわー。
15分ぐらいパックするつもりだったのになー。
若干乾いてるし。


顔に貼り付けたパックを剥がして、ゴミ箱に捨てる。


「そんなんしたって顔の造形は変わらんやろ」
「肌質の問題ですよー。フルメイクよくするんで」
「あぁ、お前はそうやったな」


京さんは眉を寄せて、テーブルの方に腕を伸ばしてコンポのリモコンを取って電源ボタンで消す。


途端に静かになる室内。


「あ、消さないで下さいよ」
「嫌やし何で家に帰ってまで自分らの歌聴かなアカンの煩いわ」
「格好良いのにー」
「当たり前やろ」
「ですよね」


京さんは吐き捨てるように言って、身体をソファに沈めて煙草を1本咥えた。

その仕草すげー格好良い。

好き。


「きょーさん、明日のご飯何がいいですかー?」
「うわ、濡れとるやん頭。くっつくなウザい」


背中を反らしてソファに座る京さんを首を上げて見上げる。

ついでに京さんの膝に擦り寄ったら、すっげぇ嫌な顔された。


確かに髪の毛乾かしてねーけど。


「明日の朝っつーか昼御飯になるんですけど…レシピとか見てるんで、あんま作った事ねーヤツ挑戦してみようかなって」
「美味かったら何でもえぇし」
「とか言いながら京さん意外と何でも食べてくれますよねー」
「……ニヤニヤすんなキショい」
「うわッ」


煙草を噛んで、眉を寄せた京さんは俺の肩に掛かってたタオルを無理矢理引っこ抜いて。


乱暴に俺の髪をガシガシと拭き出した。


「ちょ、京さん優しく!」
「っさいわ。自分で拭けんとかガキか。犬か。この駄犬」
「ちげー」


とか言いながら、乱暴に俺の髪を拭き上げる京さんの手の動きに自分の口許が緩むのがわかる。

何か甘やかされてる感じがするんだよな。


あーマジ幸せ。


「…疲れた。風呂入ろ」
「背中流します」
「嫌やし一人で入るし」
「風呂での話し相手になります」
「疲れるから嫌。頼むから大人しぃにおれ」
「えー」


残念。


京さんが乱暴に拭いて、飽きて離したタオルを頭から退けて。
手櫛で髪を整えながら煙草を揉み消して立ち上がる京さんの動作を見送る。


髪の毛乾かして、ちょっと料理仕込んで寝よ。


京さんと一緒に寝れるし。
京さん風呂長いし、ちょうどいいだろ。


「じゃ、ベッドでは一緒で」
「……」


そう言うと京さんはチラッと俺の方を見て、呆れたように溜め息を吐いた。


「ギャーギャーうっさいわ。ベッド1つなんやから当たり前やろ」
「ですよね!」


京さんの言葉にニヤつきながら、風呂へと向かう背中を見つめる。


ホント好きだなって思いながら。




20101010



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