2人の出発点C/敏京




「敏弥」
「……」
「敏弥」
「…何?今日薫君達とご飯食べに行くんでしょ。行って来なよ。俺用事あるから帰…ッ」


仕事が終わった後。
帰る言う敏弥の傍に近寄り、話し掛ける。


僕と目も合わせんと、さっさと帰り支度をしとる敏弥の腕を掴んで。


嫌がる敏弥を無視して、スタジオを出る。

他のメンバーやスタッフに見られたりしたけど、別にどうでもえぇし。


それより、こいつの態度のがムカつく。


最初に避けたんは僕やけど。

僕はえぇけど、敏弥はアカンの。

ムカつくやん。

何様やねん。


僕を、無視するとか。


好きやー言うとった癖に。


もう僕を避けるような敏弥の態度もムカつくし。

何でムカつくんかわからんようでわかるんがムカつくし。


敏弥の腕を引っ張って廊下を歩く間は一切会話なくて。

無言のままの敏弥を、あんま使われてへん倉庫みたいな部屋に押し入れた。
後ろ手に扉を閉めて、手探りで電気を探す。

明るくなった室内、敏弥の腕を掴んで自分に向かせる。


「ほんっま、お前ってムカつく」
「……何でだよ」
「は?自分に聞いてみたら?」
「な、んだよ、ソレ…」
「薫君に嫉妬して嫌味言うん、大概にせぇよ」
「……」
「僕ん事避けようとするん、えぇ度胸やし。なぁ?」
「……ご、め…」


敏弥は眉を下げて俯いて。

デカイ身体の筈やのに、凄い小さく見えた。


最後まで人の話は聞け。


「諦めへん言うたんは、何処のどいつやねん」
「……」
「僕ん事避けるし」
「……」
「なぁ、もうしゃーないから、付き合ったるわ」
「…え?」
「お前と遊ぶんも話するんも一緒におるんも楽しいし。おらん方が調子狂うねん。つまらんし」


敏弥とおったら、楽しいし。


「こうなったんはお前の所為やで責任取れや」
「…本当に?付き合うって、恋人になるって事だよ?」
「知っとるわ、そんなん」
「ほんとにほんとに、いいの?」
「えぇって言うとるやろ。しつこい。敏弥の事好きやし。…言うても、友達として、やから」
「………」
「惚れさせろよ、僕を」
「ッ、うん…!」


そう言うたら敏弥は、顔を歪ませて今にも泣きそうで。

目に涙が溜まった時、鼻を啜りながら俯いて顔を隠しとった。


「…泣くなや。えぇ歳こいて」
「…泣いてねー」
「はは、泣く程嬉しいんか。かわえぇな、お前」
「うるさい…っ、見んなよ」
「嫌」


わざと顔を覗き込んだったら、顔を逸らして口許を手で覆った。


実際、僕もいざ付き合うってなったら今まで付き合って来たどの女よりも緊張するし、楽しみな気もする。

これから、どうなるんやろうって。

なるようになるやろ。


泣く程、僕を想ってくれとる敏弥相手なんやから。


「…京君」
「なん」
「…手、握っていい?」
「えぇよ」


鼻を啜って、落ち着いた敏弥が顔を上げて僕を見て。

少し目が赤い敏弥が真剣に言うて来たから、ホラ、と両手を差し出した。


敏弥の両手が、僕の手を握り締める。


コイツの手、大きいんやな。
細っこい癖に。


「よかっ、た。気持ち悪いとか、思われたんだって、思って…怖くて…」
「うん。御免。やっぱ男に告られたん初めてやし、どうしてえぇかわからんかったん」
「好き。本当に好きだから、京君。大好き」
「うん。これからはいちいち聞かんでもえぇで。恋人なんやから」
「うん…ッ」
「あーでもイチャつくんは苦手かも」
「…慣れてよ。俺イチャつくの大好きだから」
「えーどうしよっかな」
「意地悪」
「はは、でも好きなんやろ?」
「うん、好き。…ね、抱き締めてもい?」
「やから聞くなって」


返事すると、敏弥の胸元が間近に見えて。
そのデカイ身体に抱き締められとった。


背中に回る腕。

キツく抱き締められる。


敏弥の匂い。

視界が覆われて、何や変な感じがする。


抱き締められるんて、こんな感じなんや。


慣れへんけど、落ち着く感じ。







暫くしたら敏弥が身体を離して僕を見下ろして来て。


「御免、京君の誕生日ご飯奢るって言ってたのに…プレゼントも渡したかったけど…その、やっぱ嫌われたかもって怖くて、」
「あぁ、えぇよ。気にすんなや」
「やだ。京君の誕生日に付き合えたんだもん。俺がプレゼント貰っちゃった感じじゃん」
「僕か物か」


笑いながら言うと、敏弥は慌てたように否定する。

その余裕がない感じが、頼りなくて。
でも僕に向いた感情故って思うと、可愛く思えてまう。


「違…っ、そうじゃないけど!後日ちゃんとお祝いしたいなって」
「…えぇよ。もうもろたようなモンやし」
「え?」


敏弥の言葉で言うなら、僕へのプレゼントはお前自身やろ。


そう思って、敏弥の服の胸ぐらを掴んで自分に引き寄せた。

されるがままの敏弥の唇に、軽いキスをする。


嫌悪感はなかった。


ただ、柔らかくて温かいなって。
キスなんか慣れとるのに、新鮮な感じ。

敏弥とやから。


「…きょーくんからのキスだー」


敏弥のふにゃっとした、嬉しそうな顔見たら。
悪くないって。

そう思った。


これから、恋人として宜しくな。

敏弥。




20101025



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