2人の出発点B/敏京
「…京君、おはよ」
「…ん」
「……機嫌悪い?」
「うん」
敏弥が、休憩になって話し掛けて来て。
いつもの様にテンション高く話し掛けて来ん所が、何かあの告白以来変わってしもた気がして何となく嫌やった。
誰の所為やと思っとんねん。
敏弥のアホ。
「寝不足ー?ダメだよちゃんと寝なきゃ身体に悪、」
「ッ、触んなや!誰の所為やと…!」
「…っ」
敏弥の顔が僕の顔を覗き込んで来て、手が伸びて来て僕の前髪を掻き上げた。
それを、反射的に振り払って。
声を荒げてもうたから、メンバーの視線が僕らに集中して口をつぐむ。
敏弥の方を見ると、手を出したまま固まっとって。
眉を下げて傷ついた表情んなった。
しまった、って。
そう思ってももう遅い。
今までスキンシップとか、あった筈やのに。
ライブでも。
バリバリ意識しとん、丸わかりやん。
「…御免ね、京君」
「……」
絞り出すようにそう言うた敏弥に、何も言えんと。
振り払った手が熱かった。
「なぁ、京君。敏弥と喧嘩したん?」
「……は?何で?」
「最近2人つるんでへんやん。一気に仲良くなって2人でよう遊びよったみたいやし」
「そうやっけ?」
「うん。したら最近あんま話しとらんっぽいし、また俺んち来るようなったし」
「何や薫君、僕が家に来るん嫌なん?」
「や、全然嫌ちゃうで!寧ろ嬉しいし」
「…え、キモ」
「……。とにかく、喧嘩したなら仲直りしぃよー。仲間は友達以上な関係やからな、ある意味」
「…僕悪ないし」
「んー…2人共ガキみたいなトコあるしなー」
「誰がガキやねん。薫君のアホ!」
「そう言うトコがやって」
薫君ちに来て、薫君のベッドに寝転がる。
薫君の言葉にムカついて、手近にあった枕を投げつける。
薫君はパソコンに向かっとった身体をこっちに向けて笑いながら背中に当たって落ちた枕を見た。
あれ以来、敏弥が僕ん事避けとって。
ほとんど口聞いてへん。
僕が近寄ると何らかの理由つけて敏弥が逃げる感じ。
そんな事されたら、僕やってムカつくやん。
そりゃ、跳ね除けたんはあからさまやし悪かった、とは…思う、けど。
いやでも僕悪くないしな。
無視する敏弥が悪いんやん。
ってか、薫君て意外と見とんやな。
リーダーやからか。
薫君ちには、敏弥と仲良くなる前よう来よったし。
落ち着く感じ。
やけど、敏弥と遊ぶようなったら何や物足りひんって思う。
嫌やな。
敏弥とはずっとこのままんなるんも。
どなんしたらえぇんやろ。
答えは何となく、わかるけど。
「京君、誕生日おめでとうな」
「おー。ありがとさん」
「今日早よ終わると思うし、皆で飯食いに行かん?奢るし京君の好きなモンでえぇで」
「あー…」
薫君の言葉に、一瞬視線を泳がせる。
僕の誕生日。
前に敏弥が飯連れてってくれるって約束した日。
そう思って、敏弥の方に視線を移したけど作業に没頭しとって。
約束はしとったけど、何や敏弥に避けられとるし。
これで2人きりで飯行くってなっても気まずいだけやし。
メンバーおってくれた方がえぇかも。
「うん。えぇよ。美味いモン奢ってや」
「任しとき。皆ー今日は京君の誕生日祝いで食べに行くでー」
そう答えると、薫君は目を細めて笑って。
僕の頭を軽く撫でて、他のメンバーに聞こえるように声を上げた。
「おー、祝い酒やな!」
「アホか堕威。京君が主役やねんからな。飲み過ぎんなや」
「わかっとるしー。次の日は薫の誕生日やし、一緒に祝えるやん」
「俺はえぇよ。京君祝うし」
「うわ、京君京君て煩いわぁー。なぁ、心夜」
「うん、キモい」
本人よりも楽しそうな軽口を叩くメンバーを呆れた顔で見ながら、溜め息を吐いて煙草を取り出して1本咥える。
何となく、顔を上げると敏弥が僕の方を見とって一瞬身体が強張る。
敏弥の表情は、怒っとるような、悲しそうなそんな顔。
なん、何で僕の事そんな顔で見るん。
「あ、敏弥。敏弥も今日仕事終わり行ける?」
「…俺、用事あるから帰るよ。御免」
「何やぁ、そうなん?」
「うん。皆で京君祝ってあげて」
「ほなまた別の日に行こや」
「わかった。また誘ってね」
敏弥と、薫君の会話が聞こえて来た。
けど。
用事あるなんか、絶対嘘やろ。
薫君には、笑顔で対応しとったけど。
次僕に向けられた敏弥の視線は責めるような目で。
何やねん。
何で僕がそんな目で見られなアカンの?
今の状態で2人で飯行ったって気まずいだけやん。
ムカついて溜め息を吐きながら煙を吐き出す。
何やねん。
嫌やわ。
敏弥と満足に話してへんし、遊ばんし、何や楽しくないし。
ホンマつまらん。
敏弥の所為や、何もかも。
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