好きだから/京流




深夜に帰って来たら、まだ京さんは帰って来てなくて。

眠いけど風呂入って寝たかったし、怠いなーって思いながら風呂洗って湯を溜めて。


一人で入るには広い湯船に浸かる。

俺が買って来たLUSHの入浴剤を入れて肩まで身を沈めて。


あー。
これそろそろ無くなって来たから、また買いに行こうかな。

つっても買いに行く時間あんまねーよ。

そんな時間あんなら服買いに行きてー。


そんな事を思いながら、眠くて浴槽のフチに頭を乗せて目を瞑る。


贅沢に作られた広い風呂は、リラックスするには最適。
ジャグジー機能まで付いてんだから、京さんすげー風呂に拘って選んだのかなって思う。


「〜♪〜♪」


ジャグジーボタンを押して、バブルが出るのを身体中に感じながら鼻唄を歌う。


寝そう、ってそう思ったら、浴室の外から少し物音。

京さん帰って来たのかなって思って、目を開けて脱衣所の方に視線を移す。


磨りガラスに人の気配がしたと思ったら、いきなりドアが開いた。


「…えっ!?」


そしたら、まぁ、この家には俺と京さんしか暮らしてないから当然なんだけど、京さんが入って来た。

俺が京さんが風呂に入ってる時、一緒に入りたくて突撃したりするけど、京さんが俺が入ってる時に来るなんて珍しい。


「京さん、どうしたんですか。まさか一緒に風呂入るとかそんな感、」
「煩い。外寒いし疲れたし風呂入って寝ようと思ったらお前入っとるし。待つん嫌やからや。何で僕がお前出て来るまで待たなアカンねん。お前風呂から出ろ」
「…嫌です。俺入ってんすから」


風呂から身を乗り出して。
少し、一緒に入りたいのかなって期待したのに。

矢継ぎ早に言われて、逆に絶対出てやんねーとか思いながらまた湯に身を沈めた。


そんな俺を鼻で笑って、京さんはシャワーを捻って身体を洗い出した。


その様子をボーッと見つめる。

裸になった京はんは、刺青がよく見えて。
格好良い。

身体も、それに描かれた刺青も。

全部好き。












「おい、何ボーッとしとんねん。退け」
「ッは!?え、あ、すみません」
「あー…だる…」
「仕事お疲れ様です」
「んー…」


京さん格好良いーって思いながら見つめてると。
身体も頭も洗った京さんが眉を寄せて俺を見下ろしながら浴槽の中に入って来た。


京さんの入るスペースを空けて、男2人が並んでも余裕があるスペース。

だけど、京さんの方にピッタリとくっつく。


若干、疲れが見える京さんはチラッと俺の方を見て溜め息を吐いた。


京さんって同じ男として憧れる。
腕の太さとかも違うし。

いいなー。


「…何なんくっつくなやウザい」
「数少ないスキンシップです」
「え、キモ…」
「何でですか!京さんも昔女と一緒に風呂とか入ってイチャついたりしなかったですか?」
「…お前…この、僕が、女と風呂場でイチャこく様な感じに見えるか」
「───全く想像出来ないですね…」
「やろ。チャラ男のお前とちゃうねん」
「チャラ…!?別にチャラくないですよ!」
「あー煩い声上げるな眠い」
「……」


京さんの言葉に口をつぐむ。
確かに風呂場は声が響くし。


眠そうに目を瞑って、深く身を沈める京さん。

同業者だから、大変なのもわかるけど。
だからこそ、自分がやるべき事があるのもわかるし。

俺が言って欲しい言葉はないから敢えて何も言わない。


「あっ、じゃぁ一緒に風呂入るのが俺が初めてって感じですか」
「…………いや、そんなワケちゃうけど」
「え!?やっぱ彼女と入ってたんすか!?」
「ちょ、何やねんウザい」


京さんは、目を細めて遠くを見る様に言葉を吐いて。


あ、過去を思い出してんだって思ったらそれはそれで悔しくて。

身を乗り出して京さんの腕を掴んで揺さぶると、心底嫌そうな視線を向けられた。


京さんの過去の女遍歴とか、ガセかどうかわかんねー噂は聞いた事あるけど。
実際、京さんからは聞いた事ねーし。


ちょっと気になる。
詳しく聞いたら過去にまで嫉妬しそうだけど。


まぁ、俺もそれなりに、恋人が通る様な事はして来たりしたんだけど。


京さんの場合、女とイチャつく想像が出来ねーからすげー知りたい。


「ねー、どんな人だったんすか!話題からして俺だけだと思ったのに」
「…ちょ、死ねお前ホンマ」
「痛ッ、」


京さんに詰め寄ると、腕を振り払われて。
湯から出た手に頭を叩かれた。


…残念。

仕方無い。

あんま自分の事語らねーしな、この人。


「もー…少しぐらい教えてくれたって…」
「チッ…知らん。あつ…出る」
「あっ、俺も」


京さんが立ち上がって湯船を出たから、俺も湯を抜くスイッチを押しながら立ち上がる。

背中の刺青を見ながら、後を追いかけた。


…深追いしすぎたかなー。


ちょっと不機嫌そう。

一緒に暮らして京さんの機嫌はわかる様になったけど。

過去の話の、機嫌が悪くなるスイッチはいまいちわかんねー時あるんだよなー。


好きだから、全部教えて欲しいとか我儘か。


「…きょーさん」
「……」
「……」
「…寝るで、さっさと。早よ着替え」
「あ、はい」


適当に身体を拭いて、京さんはさっさとリビングへ行った。

俺も身体を拭いて、スウェットに着替える。


一緒に風呂入んのも、一緒に寝るのも。

今は俺と。


先にベッドに入って、俺が寝る側を空けて寝る京さんが。
愛しくて仕方無いから。




20110121



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