貴方から発する声の全てが/京流




リビングにあるデカいコンポから大音量の音楽が流れる。

ヘッドフォンしてるから、俺の頭の中にだけ。


ここのマンションって防音らしいから音楽流しても平気なんだけど、たまには部屋で流すよりヘッドフォンで自分の頭の中に流す感覚に浸りたくなって。

長いコードが付いた、若干高めだったヘッドフォンは音が綺麗に聴こえて来てイイ。


頭の中に流れる、愛しい人の声を聴きながらパソコン画面に向かう。


歌う事以外にも多々、手掛けたい事があって。
凝りに凝ったら時間がいくらあっても足りねーぐらい。


家でも仕事の事すんのは俺の癖。


京さんは基本的にスタジオや事務所で仕事済ませて、家はオフにするってスタイル。


同じ業界だから、やる事は似た様な事やってんだろうけど。

俺としてはファンだったら誰でも見えるDVDとかに収録した現場じゃなくて。
京さんのバンドの、音を作る過程を一から見てみたい。


スタジオ行かせて下さいとか、言えねーけど。


さすがに邪魔だろうしな。


パソコンと睨めっこして、無意識に吸いまくってる煙草を灰皿に押し付ける。


結構な量の吸い殻が溜まって来た。

捨てねーと。


ってか、煙草吸って珈琲ばっか飲んでたからちょっと気持ち悪い。


集中してる時は気になんねーけど、床に座りっぱなしでケツいてーし。


そんな事を思いながら両手を上げてその場で伸びをする。


あ、この声好き。
京さんの。


ヘッドフォンから流れ出る多彩な声に耳を傾けて、聴き入っていた。


ら。


「オイコラ無視か糞るき!」
「え…っ!?」


いきなり音楽だけの世界だったのが、静かになって声が聞こえる。


一瞬何が何だかわからなくて、驚いて振り返ると。
俺が付けてたヘッドフォンを持った京さんが俺の後ろに立ってた。


京さんにヘッドフォン取られたっぽい。


ちょっといるとは思わなかったから、心臓バクバクですけど。
ビックリして。


チラッと時計を見たら深夜に入る時間帯。


「え、あ、お帰りなさ、い」
「…何聴いとんねん。うっさいわ。飯は」
「あっ、あります」


大音量で聴いてたから、ヘッドフォンからは当然音漏れがして。

京さんはそれが直ぐ様、何の音か認識したらしくて眉を潜めた。


俺の方に投げられたヘッドフォンを受け取ってテーブルに置く。


京さんはハットとマフラーをソファに置いて。
そのまま座った。


いっぱいになった灰皿を持って立ち上がり、キッチンへ向かう。


京さん帰って来れるのかとか、飯食うかとかわかんなかったから。

作り置きしてたら味か染みるかなーって思っておでん作ったし。
それをIHのスイッチを押して温め始める。


ついでに三角コーナーに煙草の山を捨てて、灰皿を洗った。


「京さんすぐ出来ますよー」
「……」
「…京さーん」
「……」


返事が無かったから、夜も遅いし寝たのかな早えーなって思って。

ソファの方に行くと、俺が聴いててそのままにしてたヘッドフォンを、京さんが煙草を吸いながら聴いてて。


俺が近寄ると、気配を感じたのか視線を上げてヘッドフォンを外した。


「お前、これデカ過ぎやろ。性能はえぇけど」
「このぐらいのがテンション上がりません?好きなんです。京さんの歌聴くの」
「ふーん…」
「あ、消しますね」


ヘッドフォンをテーブルに置いて、まだ音漏れしてっからコンポに近寄って電源を落とす。


温まって来たから、キッチンからおでんのいい匂いがして来た。


「京さん、飯…、」


あと灰皿。

キッチンに洗って置きっぱなしだし。


灰が落ちるまえにテーブルに着いて下さい。


「自分の声って聴き慣れたけど、聴き慣れるんも変な感じやな」
「あー自分の体感する声と歌う声って違いますもんねー」
「今日の飯は何」
「あ、おでんです」
「あそー」


京さんが煙草を吸いながら立ち上がって、テーブルに向かうその後ろを付いて行く。


おでん入れる皿ー…は、これにしよ。


「でも京さんの、歌って無かったら若干高い声も好きなんですけどね」
「…高い?」
「…少し」
「るき低いよな」
「ですかね?」


声と言えば。

昔は歌ばっか聴いてて。
こんなに普通の会話する声を聞くなんて事は思わなかったけど。


今はそっちの方が多い気がする。

それってスゲー幸せかも。


「何ニヤニヤしとんねんキッショい」
「もー京さん俺の事キショいって言うの癖になってませんか!?」
「やっていつもキショいやん。ホンマ無理無理るきちゃん気持ち悪いわー」
「ひでー」


そう言って笑う京さんの声も、大好きです。

全てが京さんだから。




20101224



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