柚子湯/京流
るきが沸かした風呂に入っとんやけど、凄い匂い。
何か柚子?
柑橘系のモンが半分に切られて何個も湯船に浮かんどった。
まぁ悪い匂いちゃうけど。
いつもるきが買って来る入浴剤のがキツい匂いするし。
身体も髪も洗って、一人で浸かるには広いスペースの浴槽に肩まで浸かる。
フチに頭を乗せて、蒸気のこもる天井を見上げた。
「───京さん、湯加減どうですか?」
「あー…うん」
「今日柚子入れたんですよー」
「ちょ、開けんな」
「ホントは昨日が冬至で、柚子湯に浸かる筈なんすけど、昨日は京さんより帰って来るの遅かったんで今日入れました」
「ふーん。えぇから寒いし早よ閉めろ」
気持ち良く浸かっとったら、るきが浴室の扉開けて来て。
熱がこもった室内から、一気に冷たい空気が入って来た。
Tシャツ、ジーンズ、眼鏡姿のるきがヤンキー座りしたまま何か喋っとった。
僕が風呂入る前は飯作りよった筈やねんけど。
出来たんかお前。
「柚子はスーパーで買ったんすけど、あぁ言うのって高いっすねー」
「…お前何脱いでん」
「でも柚子の匂いって意外とイイですね」
「無視かゴラ」
るきが眼鏡外したと思ったら、淡々と喋りながら服脱いでって。
コイツ一緒に入るつもりか。
「冬至って、1年の中で最も昼間が短いらしいんすけど、俺らあんま意識しないですよね。スタジオ籠ってるし」
「…まぁ、確かにな。つーか何自然に入って来てん」
「失礼しまーす」
「……」
笑いながら、全裸んなったるきはシャワーを出して適当に身体を流しとった。
コンタクト入ってへんから、ボディーソープを手に取るんも目ぇ細めて見とって。
何となく、そんなるきの様子を観察。
コイツ筋肉全然無いなぁ。
タイトなライブスケジュール組んどるから、体力はあると思うけど。
「…お前何勝手に入っとん」
「いいじゃないですか。京さんと一緒に入りたいなって」
「はー…」
「京さん足踏みそう。ちょっと避けて下さい」
「嫌やしお前が端っこにおったら」
「えー」
身体を洗ったるきが、湯船に入って来て。
男2人が入っても余裕あるぐらいの広さやのに、るきはわざわざ僕ん方に寄って来て。
足伸ばしとん避けるんめんどいから、湯の中のるきの身体を軽く蹴った。
るきは笑いながら、柚子を手で退けつつ僕と向かい合わせの形で、僕の腰辺りに座り込んで。
いつものるきの顔をチラッと見る。
したら、るきと目が合った。
目を細めて笑うるきは湯気が立っとるから、フィルターかかっとるみたいに見える。
場所とか、雰囲気って大事やんな。
「気持ちいーっすね」
「…セックスとどっちが」
「あは。京さんとのセックスのが気持ちいーです」
「るき淫乱やもんな」
「だって好きなんですもん」
「はいはい」
そんな会話しとったら、るきが浴槽の底に手ぇついて僕の方に近寄って来て。
顔が近寄って来たからその顔をじっと見つめた。
目が悪いからか、そうやないのかるきは僕と目を合わせて近づいて来て。
「……お前ってホクロ特徴あるよな」
「…今言わないで下さいよ。気にしてんすから」
見えた間近のるきの顔を見て言うと、キスしようとしとったるきの動きがピタッと止まる。
顔を歪ませて気が逸れた時。
その固まった瞬間、湯から手を出してるきの首根っこを掴んで引き寄せた。
「ん…ッ」
そのままるきの唇にキスをした。
バシャッと湯が跳ねる感覚。
るきはバランスを取ろうと、僕の肩に手を置いて密着した。
るきからやられるんも何や癪やん。
勝手に風呂も入って来よるし。
ホクロ気にしとんや。
えぇやん。
僕その顔のが見慣れとるし、気にならんけどな。
静かな浴室ん中で、何度かキスし合う音が響いて。
「…京さん、好き」
「うん」
雰囲気に飲まれて、るきが囁く。
そう言う単純でかわえぇトコが、僕も。
終
20101223
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