その腕の中で/京流
一応、自分の中で決めたノルマも達成して。
風呂入って眠りについて数分、京さんが帰って来た音がした。
動く音は聞こえてて今京さん歩いてんだろうなーって思うんだけど半分寝てる意識の中だから、起きる気がしねぇ。
眠い。
お帰りなさい、京さん。
お仕事お疲れ様です。
明日の朝ご飯はちゃんと和食にするんで(鮭買って来たし)今は寝ます。
おやすみなさい。
そんな事を頭ん中でぼんやりと考えながら、何となく京さんから発せられる音に耳が集中してしまって。
あ、今風呂から出たんだな、とか思ったり。
眠いと寝たり意識が浮上したりして、時間経つのが早く感じんだよな。
ドライヤーの音が止まったと思って廊下を歩く足音。
寝室のドアが開いて京さんが部屋に入って来た気配。
その瞬間。
俺の隣、京さん側に重みが加わりベッドのスプリングが軋んだ。
京さんが隣に寝たんだなって思って眠くて重い身体で京さんにくっつこうと寝返りを打つ。
指先に触れた感触は、京さんの素肌。
「……ん…?」
頑なに寝る体勢を取ってたんだけど、薄目を隣にいる京さんを見やる。
ぼやけた薄暗い視界に入って来た京さんは、布団の上に上半身裸でうつ伏せに寝てる状態。
…いくら風呂上がりで空調管理してるからって、冬なんですからそんな格好で寝てると風邪引きますよ…。
「…京さん、ちゃんと布団の中に入って下さい」
京さんの肩の辺りを揺さぶる。
風呂上がりだから、温かい身体。
うつ伏せで、顔は反対方向向いてるから見えない。
疲れてんのかな。
でも冬なんだからちゃんと服来て布団入って寝て下さいよー。
眠かった筈なのに、肘を付いて起き上がる。
「京さん、風邪引きますって。引いたらしんどいですよー」
「…ん゛ー…」
「もー…京さーん」
背中をぺちぺち叩いても、低い声を出しただけで起きない。
京さんが布団の上に寝てっから布団被せらんねーし。
起きて下さいよー。
薄暗い室内が、目が慣れて来て京さんの身体が浮き上がる。
無駄がない綺麗な筋肉のついた背中。
全体に入れた入れ墨も綺麗。
統一性の無い腕と、千手観音の背中がミスマッチな感じがして、それが京さんらしくてイイ。
じっと京さんの背中を見下ろしてたら、千手観音と目が合いそう。
京さん後ろにも目があるとか。
京さんなら見えないトコも見えそう。
…何だその妄想。
寝てたから頭湧いてんのかな、俺。
自嘲気味に笑って、彫り師は女の人だって行ってた優しい顔つきの千手観音の顔を撫でる。
段々温かかった身体は冷えて来て。
マジ風邪引いたらしんどいのは京さんですよー。
そう思いながら、何となく見つめてた千手観音の顔に唇を寄せる。
そのまま、唇にキスをして。
風呂上がりの京さんの匂い。
ちょっと温かくて、頬を擦り寄せる。
京さんの心臓の音が心地好いリズムを刻んで。
あー…俺、このままでも寝れそう。
べったりくっつくようにしたら、京さんは少し身じろいだ。
「……何やの、重…」
「…京さん、布団の中に入って下さいよー」
「ウザ…寒いし…」
「だから、布団の中…ッ、」
京さんが喋る度、身体がくっついてるから声が響いて聞こえる。
寝惚け気味な京さんにくっついたまま喋ってると手探りで俺の腕を掴んだ京さんに、上から引きずり落とされた。
眠いながら、すげー力。
筋肉ついてっからな。
そんな事を思って、俺は下半身は布団中に入ってるからすごすごと布団を肩まで被る。
隣で京さんが不機嫌そうにしながら布団の中に入って。
布団の中で、京さんの腕が伸びて来て俺の腕を掴んで引き寄せられた。
だから、京さんの力には逆らえないんですって。
「……」
京さんの両腕に抱き締められて、口許がニヤける。
京さん上半身裸で寒いですからね。
別に誰が見てるワケでもないのに、そう言い訳して。
京さんの背中に腕を回した。
幸せ。
忙しくて会えなくても、こう言う事があるから。
だから愛しいんだこの人が。
終
20101211
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