去年のあの日/京流
ツアーも終わって、出たく無かったけど打ち上げも少し出て。
結局帰って来たんは朝９時ぐらいやった。
デカいキャリー引っ提げて、自分ちに帰って来たらるきはおらんみたいやった。
そう言えば、メールで今日ライブやとか何とか言うとったな。
靴は無いけど、玄関入ってすぐそこにはるきのキャリーがあった。
多分、すぐに遠征行けるようにやろな。
溜め息吐いて、眠いし怠いし打ち上げ独特の匂いが自分にまとわり付いとんが気持ち悪いし。
早よシャワー浴びて寝たい。
頭を掻きながら、キャリーをるきのキャリーの近くに放置してさっさとリビングに向かう。
サングラスやアクセを外して、るきが出した炬燵テーブルの上に置く。
結局去年のにしたんやな。
アイツ無駄に金遣うしなー買い物依存症どなんかせぇよって思うわ。
そんな事を思いながら、水が飲みたくてキッチンへ行くと、テーブルの上には皿に盛られてラップかけられた料理と。
るきの独特な文字が綴られた紙。
と、箱菓子。
まぁ、内容はお疲れ様ですだとか今日は千葉、明日は岡山でライブ行って来ますだとか。
そんな内容。
振り替えある言うとったもんな。
何公演あるんかは知らんけど。
僕んトコもハードスケジュールでライブやるけど、るきんトコも大概やんな。
欠伸を噛み殺しながら、文字の羅列を視線で追う。
『今日はポッキーの日ですよ。前みたいに一緒に食べれなくて残念です』
その言葉を読んだ時、料理の皿の隣に置かれた箱菓子を見下ろして鼻で笑う。
そう言えば、去年もそんな事言うとったな。
るきが凄いアホな事言うて、アホな事やった気ぃする。
あれからもう１年経ったんや。
早いな。
ライブやっとるって事もあるけど、歳取ると時間の流れが早く感じる。
しんどい時は長いのに。
朝に作ったであろうオムライス。
ラップかけとるから水滴ついとるし、ケチャップで何か書いとんは潰れとるしで。
それでも、いつものるきの料理。
今は欲しくないし眠いから、また起きてから食お。
何だかんだで、久々やし。
『京さんお疲れ様です。起きてました？』
「うん。なしたん。リハは」
『終わりました。メイクもしたし、後は開演を待つだけです』
「ふーん」
風呂入って寝て、起きて飯食ったんが15時過ぎ。
今日だけはオフやから、疲れとるし寝といたろって思ったけどあんま寝られへんかって。
るきが作っとったオムライス食って、箱菓子に手ぇ出そうとしたらるきから着信。
空いた皿をシンクに置いて携帯でるきと話しながら箱菓子持ってソファに移動。
何か観てへんDVDはあったやろか。
『京さんライブどうでした？俺も行こうと思ったんすけど、さすがに今回バレて止められて…』
「うん。来んでえぇから」
『年末のは行きますから』
「やから来んな。…言うても来るんやろな、お前」
『あはは。行きますよ。ステージに立つ京さんも観たいですから』
「あそー」
るきの低い声を聞きながら、ナンボ言うても聞けへんし半ば諦め気味に溜め息を吐く。
ソファに足を乗せて背もたれに凭れかかって。
るきが置いとった箱菓子を開けて、ガサガサと封を切る。
『あ、京さん今日はポッキーの日ですよ、食べました？』
「今食っとる。何これわざわざ買ったん」
『はい。前は貰ったんすけど…今年は買いましたよー。グリコ味ですよグリコ味』
「いや、知らんけど」
『京さん食べてんなら俺も食お』
「……」
電話口で、れいたーとか言う間抜けなるきの声が聞こえて。
あ、ホンマ何か懐かしい味するコレ。
変なんとか好きやしな、るき。
『京さん美味しいですか？』
「うん、まぁ」
『俺も同じの買ったんすよー。お揃いですね』
「知らん。キモい。死ね」
『あ、美味ぇコレ。また買お』
「太るでデブ」
『ライブで運動します』
「何年ライブしとんデブ」
鼻で笑うと、るきがキャンキャン煩かった。
『あ、京さん晩ご飯は冷蔵庫に入ってますからね』
「知っとる。書いとった。今さっき飯食ったから考えたないわ」
『まぁ一応。肉じゃが美味しく出来ましたから』
「はいはい」
『早く会いたいなー京さん』
「ライブなんかあっと言う間に終わるやろ」
『そうですね。去年の事とか昨日の事みたいですもん。ポッキーゲー、』
「それ以上言うな死ね」
『……。来年一緒に出来たらいいですね！』
「ライブ入れといたろ」
『うわ、観に行きます』
「来んな言うとるやろ」
笑いながら喋って、るきが買っとった箱菓子を食べて行く。
るきはライブやけど、日常に帰って来た感じ。
『あ、れいたそんな食うなよ！俺の分無くなるだろ！』
「……」
コイツのアホな声で、とか笑えるけど。
それが一番、揺るぎひんモンやから。
終
20101112
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