それはお互い/敏京
「京君何処行ってたの」
「………」
うん。
別にな、恋人やからって休みの日とか毎回毎回一緒におる必要とか無いやん。
やから、敏弥の約束が無かったから薫君から誘って来たんは断らんと行ってん。
つっても晩飯食って話して帰って来たんやけど。
どうやら敏弥は、オフの日はいつも僕が引き籠もっとんを見越して合鍵で来たらしい。
あぁ、そう言えば僕、薫君と待ち合わせの前にDVDとか買いに行く為に早めに出てんな。
玄関開けると敏弥の姿。
なん、待っとったんかい。
まぁ別に来るんはえぇけど、何んなキレ気味なん。
意味わからんし。
「薫君と飯食いに行っとってん」
「メールとか電話しても繋がんないし」
「あー…地下の店やったからやない?」
何か問い詰める様な視線と口調が欝陶しかったから、適当にあしらいながら靴を脱いで敏弥の脇を擦り抜ける。
そしたら腕を掴まれた。
「痛いわ、なん」
「やだ」
「は?」
「薫君でも、やだ」
「………」
…もうコイツの独占欲はどなんかならんのかいって思う。
何度も何度も言うとる筈やねんけど。
「…何で」
「京君の隣にいんのは、俺だけでいいの」
「嫌やそんな狭い世界」
「やだ」
「こっちが嫌」
「じゃぁ出かける時連絡して」
「はぁ?何でわざわざ敏弥に言わなアカンの」
「俺も行く」
「お前…拗ねとるだけやろ。いい加減にせんと怒るで」
掴まれた腕が痛いし、振り払おうとしても無理やし敏弥の言葉もウザいし。
わかっとって煽る僕も僕やけど。
敏弥の返答なんかわかり切っとんねん。
「だって好きだもん」
「好きなら信用せぇや。信用されとらんのが腹立つんやけど」
「………御免」
「うん」
「好き」
「知っとるわ」
「…京君は?」
「…腕離してくれへん?」
問い掛けてくる敏弥の、視界に入る位置に掴まれたままの腕を上げて手をかざす。
左手。
敏弥が何となくソレに目をやって。
「…あ」
「手ぇ痛いんやけど」
「ッ、京君大好き!」
「うわっ、離せ言うたやん」
仕事以外では付ける約束しとった、左手薬指に敏弥とのペアリング入れとんを確認したら。
さっきまでめっちゃ不機嫌やった顔がわかりやすく笑顔全開。
単純やなぁ…。
玄関で抱き合っとんとか、アホみたいやん。
敏弥って何でこんなんなんやろ。
抱き付かれて苦しい中、ぼんやり考える。
もうちょっとマシんなったらえぇのに。
嫉妬とか。
わざとさそうとか思わんけど、メンバーとかにまでされると適わんのやけど。
寧ろ薫君に言うて薫君に怒られてまえ。
そんなトコが好きな時もあるけど…何や僕って敏弥の事好きなんかい。
「京君ーお腹空いたー」
「知らん。僕食べて来たし」
「コンビニ行こ?一緒に」
「嫌。DVD新しいん買ったから観んねんもん」
「ならお菓子とか食べながら観たら楽しいよ。いーっぱいお菓子買ったげるから」
「…お前…僕お菓子にいつも釣られると思っとん」
「うん」
「………」
「いいじゃん。京君と会えなかったから、今は離れたくない」
「はぁ。いつも仕事で会っとるやん…」
僕の肩口にグリグリと顔を埋めて擦り寄る。
ガキみたいな事すんなって。
「寂しかったもん。お腹空いたもん。京君と一緒にいたいもん」
「はいはい。デカいガキやなお前」
「うん。京君が優しくしてくれんなら、ガキでいい」
「えー…僕が嫌や」
「俺よりも大人な京君も大好き」
そんなん。
敏弥のが、そうやと思うけど。
言わんけど。
ストレートな物言いの感情表現なんて出来へんし。
「だから京君、コンビニ行こ」
「……僕今帰って来たばっかやねんけど」
「ちゅーしたげるからコンビニ行こ」
「いらん。何の罰ゲームや」
「酷ぇー」
「まともに誘わんからや」
「だって来てくんないもん」
「めんどいやっちゃな、お前」
今度からホンマに連絡しとこか。
そっちのが楽な気ぃする。
でも忘れるか自分。
さっきまで拗ねとったり、機嫌良くなったり我儘になったり。
めんどい奴やな。
「ほな行くで。お菓子めっさ買わしたる」
「やった!京君大好き」
当たり前やん。
でないとペアリングやせぇへんで。
終
20090307
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