ライブ前日予定/京流




鍵の開く音が響いて、反応する。
垂れ流しにしてたDVDも、逸る気持ちを誤魔化す為に開いたパソコンの何も進んでねぇ仕事用の画面も。
全部放り出して、玄関へと向かった。

まぁ頭より身体が反応するっつーか。


「京さん、お帰りなさい」
「ん」


デカいスーツケースを引っ提げて、玄関に立ってブーツを脱ぐ京さんは、ライブが終わって小休憩になった事でいつもよりも数段、穏やかな雰囲気。

つっても、京さんはまたすぐにライブがあるけど。
その間で、帰って来る場所に俺がいれるこの空間が、嬉しい。


「お腹空いてませんか?」
「いらん。疲れた。寝る」
「あ、はい」


京さん寝んのか。
構って欲しかったけど、連日ライブで憔悴した顔を見るとそうも言えねぇ…一緒に寝ようかなぁ。

あ。


「京さん風邪治りました?」
「治った」
「ならよかったです」
「ん」


淡々とした口調で、上着やら装飾品やらを取り外しながら寝室へ向かう京さんの背中を、スーツケースを運びながら見送る。

DIRのDVDとか画面に流しっぱなしだったけど、チラリとリビングに視線を向けただけで、突っ込む気力も無いらしい。
スーツケースの中身ちょっと整理したかったけど、早く一緒に寝たいからもう寝よ。

京さんと一緒に寝んの、久々だし。

京さんのスーツケースをリビングで開けて、取り敢えず洗濯するモンだけ取り出す。
まぁコインランドリーとかあっただろうし、そこでも洗濯出来るだろうけど、どれがそうかもわかんねぇから全部。
今から洗濯機回すのは面倒だから、放り込んでそのまま。

京さんが寝てるであろう、寝室へと向かう。


…と、寝てると思った京さんは起きてて、手に持ってる小さい紙をガン見。

どうしたんだろ…………って!


「あっ!!」
「お前…これ何…」
「……F.O.V.Sさんの、ライブチケットです」
「へぇ」


やっべぇ…あまりにも嬉しすぎてチケット取って、京さんがいないからって枕の下に入れて寝てたんだった。
京さん枕抱き込む癖あるから、それで気付いたのかな。

いや、悪い事してるワケじゃねぇけど。

ベッドに入ろうとして、布団を捲ろうとした手が止まる。

京さんは、寝転がったままチケットを目を細めて見つめて。


「なん、お前って他のバンドも見に行くんやなぁ…」
「……やー、バンド名ってかFEASTOF X SENSESってのイニシャルだと思うんですけどねー」
「ぁあ?」
「…何でも無いです」
「教えてへん筈やけど」
「知りました」
「来んな」
「…俺が見んのはF.O.V.Sさんのライブで、京さん関係な…」
「……」
「いえ、何でも無いですすみません」


京さんに睨まれた怖ぇえぇえ!
でも格好良い。

いいじゃんチケットちゃんと自分で取ったんだから!
鹿鳴館とか超狭いトコで見たいじゃん!!


「お前ライブあるやろ」
「……大丈夫です!何とかなります!」
「んなワケあるか。前の日に何しとんアホやん」
「…ってか、京さん俺のライブの日覚えててくれたんですか!」
「チッ。今そんな話してへんわ」


舌打ちされた。
けど、前教えた日程を京さんが覚えてるとか超嬉しいんだけど。


「パス出してるんで、来て下さいね!」
「嫌やアホ。僕前の日ライブやねんしんどいわ」
「…やっぱ京さんのライブなんですね!」
「…うん、よし。破棄」
「あぁあぁッ!!ダメです止めて下さい!!」
「お前が止めろ。お前目立つからアカン」
「変装して行きますから…!」
「アカン。死ね」
「死ぬなら京さんのライブで死にたいです」
「………」


何か、このままだとチケット破られそうな勢いだったから、慌ててベッドに乗り上げて取り返そうと手を伸ばした。

まぁ、避けられたけど。


呆れた様に溜め息吐かれて、伸ばした手を掴まれてそのままキスされた。

久々の京さんの唇とその体温。
身体が弛緩してくのがわかる。


「…あ…京さ…」
「次の日ライブやろ」
「はい」
「他のメンバーに迷惑かけるような事、やめぇや」
「…はい」
「アホ」
「…アホですもん」
「キショ。はい、ほなもういらんな、コレ」
「え」
「なん?」
「いえ」


あぁー…やっぱ行っちゃダメなのか…確かに次の日ライブでヤバいかなとは思ったけど。


「…まぁコレごみ箱にこのまま捨てるけど、後の事は知らんからな」
「…え」
「ほな、おやすみ」
「おやすみなさい…」


そう言って1枚の紙切れをごみ箱へと落とすと、京さんは背中向けて寝に入った。

…うん。
許可、下りたって事でいいの、か…な?


「…ッ京さん大好きです」
「うっさいわボケ。寝れんやろ死ね」




20090307


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