次の日。
この希望ヶ峰学園軟禁生活も1週間ほど経つ。
そろそろ知り合いからクラスメイトに発展してくる頃、かどうかは知らないが、昨日あんなに喧嘩をしていた石丸くんと大和田くんがすごく仲良くなっていた。怖い。
そんなわたしも朝日奈ちゃんや大神さんたちとお茶を共にしていると、懲りずにモノクマがまたわたしたちを体育館へ招集する。
また、新しい動機だとか。
今度は人に知られたくない過去の公表、……まあ、それなりにくるものはあるが、こんなので殺人を犯す人は流石にいないんじゃないか。
結構な楽観視だが、どうやら苗木くんや朝日奈ちゃんもその意見は一致しているらしい。
しかし不二咲さんがまた泣いてしまった、大丈夫なのか。

「ありがとう…大丈夫だよ、……、強くなって、必ずみんなに…話すから」
「……別に、こんなの話さなくたっていいんじゃないの?」
「ううん、これは僕が変わるチャンスなんだ…だから…」

本人に何か思うところがあったらしい、それだけ言い残して不二咲さんはどこかへ行ってしまった。
前回のようなショックはなかったので、わたしたちはあまり気にすることなく昼食など一日を過ごしたのだった。


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「おはようございまーす!あれあれ、そんなに寝てて大丈夫なんですか?クラスメイトに何かあったかもしれないのに…」

そんな目覚ましと共に、急いで食堂へと向かうと、大神さんがまた起こってしまったのではと最悪の想定を始める。
そんな慌ただしい中、珍しく立ち上がった十神くんが苗木くんを引き連れてどこかへ行ってしまった。
石丸くんがその後を追って数分。
本当に最悪なことに、死体発見アナウンスが鳴り響く。
わたしたちも立ち上がり、石丸くんが走って行った方向へ向かうと、彼が顔を真っ青にして女子更衣室へと案内した。
殺されていたのは、…………不二咲さん。
それも、張り付けにされていて、それだけでもひどいのに、『チミドロフィーバー』なんて頭の悪そうな血文字まで!
……勘弁してほしい、わたしたちの中にこんな猟奇的な殺人をした人間がいるなんて、そんなこと信じたくない……!


そのまま捜査開始となり、わたしたちは不二咲さんを殺した犯人を探さなければならなかった。


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こうして、二度目の学級裁判が始まってしまった。
二度と来ることのないよう願っていたこの場所に、また立って…犯人を突き止めなければならない。
まずは凶器について、ダンベルだということは満場一致、次はあの残虐な殺し方だ。
それについて十神くんが、素っ頓狂な発言を始めた。

「こいつは『ジェノサイダー翔』の仕業だな」
「はあ!?」

ジェノサイダー翔、巷で有名な殺人鬼だ。
全くもって意味がわからない、わたしたちの中にジェノサイダー翔がいるってこと…?
それじゃあ、わたしたちは今まで殺人鬼と一緒に暮らしてたってことにもなるし、大体そんなことあるわけない……と思っていたら、苗木くんからそれを支持する声が聞こえた。

「そういえば、ジェノサイダー翔は解離性人格障害の可能性があるって、ジェノサイダー翔の極秘ファイルには書かれていたよ」
「そうだ、そしてそのジェノサイダー翔の正体…それは腐川冬子、お前だ!」
「ひぃッ……だ、黙っててくれるって言ったのに…!」

バタリとその場に倒れた腐川さんが、倒れたモーションを逆再生したように立ち上がる。
そこにはわたしたちの知っている腐川さんの面影はどこにもなく、早口でぺらぺらと話す軽薄そうな女性の姿。

「あれあれーっ?何かバレてるんですけどー!そうそう、あたしが超高校級の殺人鬼、ジェノサイダー翔よ!」
「ええっ……!?」
「フッ、これではっきりしただろう、こいつが犯人で間違いはない」

まさか本当にジェノサイダー翔がいたとは……!
しかもあの腐川さん、血の苦手な腐川さんがだなんて。
殺人鬼へと変貌した腐川さんは、十神を指差してげらげらと笑って自分の殺人の美学を語り始めた。

「はぁ〜、全ッ然わかってないわねアンタ、あたしの殺人を何もわかってないっていうか」
「…そうだ、ジェノサイダーの殺人とは凶器が違うよね…?」
「ピンポーン大正解!あたしは凶器にもこだわって殺人にはマイハサミを使うの!」

…まさか、殺人鬼と会話をする機会なんて夢にも思わなかったけれど、苗木くんはジェノサイダー翔の殺し方について次々と指摘を施す。
凶器、張り付けの仕方、過去の被害者の法則。
どうやらジェノサイダー翔が殺すのは男子だけらしい、…となると不二咲さんが殺されるのはおかしいのでは。

「……不二咲千尋は、男よ」
「えっ……!?」

本日何度目だかわからない驚き。
何と霧切さん、捜査中に不二咲さんの身体を調べていたとき発見したとか。
……本当にこの子、探偵か何かなのか。
モノクマもその事実を認めると、ジェノサイダー翔もころしとけばよかったなんて物騒なことを言い出す。
ジェノサイダー翔が殺していない確証もないが、どちらかといえばそんなことを知っていた十神くんの方が怪しかったりする。
すると苗木くんが今度は十神くんを庇いだす。

「ねえ、十神くんは犯人じゃないのかもしれない…。だってさっき、不二咲クンが男子ってわかったとき、すごく驚いていたよ」
「…芝居はここまでだな。そうだ、苗木の言う通り、俺は犯人ではない」

…犯人ではないと言われても。
それにしてもなんて自信だ、わたしが疑われたときもこのぐらい強気でいればよかったのか……いやわたしには無理だけど。
どうやら十神くんが今までこんなに怪しかったのは全て犯人を動揺させるためのものだったようだ。
…でも実際、死者を辱めるようなことをした十神くんはあまり許せる存在にはならないけど!

「では一旦話を整理しましょうか」

セレスさんが仕切り、不二咲くんが殺された現場の状況整理が行われる。
苗木くんが指摘した通り、どうやら犯人は殺人を犯した場所の入れ替えを行っているらしい。
霧切さん曰く、亡くなった生徒の電子生徒手帳は使おうと思えば誰にでも使えるようになっている……ただし桑田くんの電子生徒手帳は壊れていたらしい。
なら犯人は少なくとも男性ということが特定される。

「そういえば、セレスさんは夜に不二咲クンと会ったって言ってたよね?」
「ええ、大きなバッグにジャージを詰め込んでおられました、誰かと待ち合わせをしていたのでは?」

ジャージか、…不二咲くんはそんな夜、どうして運動なんてしようとしたんだろう。

「わかったぞ!犯人は不二咲くんとおそろのジャージを選んだのだな!」
「じゃあ俺のは違うな、俺は不二咲の青のジャージと違って黒だ」
「……っ!」

…今の発言、ちょっとおかしいんじゃ。
苗木くんや霧切さんもそれに気づいているらしく、それについての言及を行う。

「ね、ねえ…大和田くん。どうして、不二咲くんのジャージの色が青だって知ってるの?」
「…セレスさんは、ジャージの色については何も言ってないよ……」
「そ、…それ…は」

わたしの予想も珍しく当たり、不二咲くんと夜に約束をしていたのは大和田くんでほぼ間違いなさそうだった……それが意味するのはつまり。
すると石丸くんが激昂し、大和田くんへと詰め寄る。

「嘘だろう、嘘だと言ってくれ兄弟!!」
「…………」
「今の推理は何処かに明らかな穴がある、なあそうだろう!?」
「…そうだよ……。…俺が、不二咲を……殺したんだよ」
「何故、何故だ!!?」

大和田くんの自白、そして投票タイムが行われる。
……本当に殺したのは大和田くんだった、でも……どうして。
大和田くんは依然として口を開かなかった。
代わりにモノクマは、人の秘密をぺらぺらと喋り出す。
不二咲くんは強くなろうとした、でも大和田くんにはそれができなかったのだ。
わたしたちがこんな状況じゃなくて、普通の高校生だったら…あの二人は強くなって、過去を乗り越えられたのかもしれない。
でも、そんな夢見話は所詮夢。
大和田くんは不二咲くんを殺してしまって、…そして大和田くんもこれから処刑されるのだ。
最後まで石丸くんは大和田くんの処刑に反対した、投票すらも自分に票をいれた。
しかしその心を踏みにじる様に大和田くんの処刑が開始される。
桑田くんの時同様、処刑は各才能に相応しい形で行われるようだ、……こんなに自分が冷静なのがとても腹が立つ。
この一週間でもう5人も死んだ。
人の死ぬところなんて、しかもこんな残酷な死に方…精神がどうにかなりそうだ。
外に出たい、こんなところ一秒もいたくない……!
でも、外に出るためには殺人を犯さなければならない。
相変わらず、わたしにできることなんて何一つ存在しないようだ。
不二咲くんとした約束も、二度と果たされることはないんだなあと、ぼんやり考えていた。


週刊少年ゼツボウマガジン(2)


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02/09


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