…………。
わたしは長い眠りから目を覚ます。
そこは希望ヶ峰学園の旧校舎だった。
……どうしてこんなところに、わたしはいるの?
…………!
失われた記憶と、今の記憶。
そのそれぞれが混同して、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
でもはっきりわかったこと、わたし達クラスメイト17人は記憶を奪われて、何者かに閉じ込められて、……あれ?
わたしたちクラスメイトは17人。
今、この生活内には……戦刃さんが、どこにもいない。
……思い出そうとすると頭が痛む。
そうだ、わたしはここで記憶を奪われて、クラスメイトで殺し合いを…させられて。
……わたし達、今までクラスメイト同士で、殺し合ってた…!?
誰がそんな、残酷なことを…ッ!

「あれえ?汐海さん、こんなところで何してるの〜?」
「も、モノクマ…!」
「もしかしてさあ、思い出しちゃったの?全部?」

モノクマがわたしを疑う。
そうだ、こいつのせいで全部全部…!
わたしの記憶を奪ったのもこいつ、何者なんだ!
……ふと、ある可能性が頭をよぎる。

「ねえ、もしかして……あなた江ノ島さんじゃないの…?」
「はあ?江ノ島さんは死んだじゃん!ボクが殺したし!」
「いいや…あの江ノ島さんは明らかに顔が違ったよ……あれが戦刃さんなんじゃないの、そんなことできるのは江ノ島さんしかいない!」

ぎくー!とわかりやすい声で慌てるモノクマ。
そういえば、松田先輩の技術を盗んだのだって、江ノ島さんなら容易く行える。
……それに、松田先輩を殺したのも多分江ノ島さんだ。
でも、江ノ島さんは松田先輩のこと、好きだったはずなのに。

「ねえ、何で…?」
「何でって言われましても、全ては絶望の為ですかね!」
「絶望……」

昔から、江ノ島さんはちょっと変なところがあった。
超高校級のギャルなんて言われてるけど、結構何でもできたりするし、そんな自分をつまらなく思ってると愚痴を零していたこともある、だからすごく飽きっぽかったっけ……。

「でもさあ、オマエが今全てを話しちゃうのはちょっと展開が違うんだよね!」
「展開……?」
「そう!今も捜査中なんだけどさあ、オマエなら犯人もわかっちゃうでしょ?」

ちょっと待って、犯人ってどういうことだ。
あの中にはもう殺人を企てるような人はいないはずなのに…。
十神くんが霧切さん…とか……いや、いくらなんでも殺人に発展するようなことは絶対にあり得ない!

「うーん、殺されたのは誰だかヒミツだけど、でもオマエにはそんなこと関係ないよ!!」
「なん、でよ…学級裁判を開くんでしょ…?」
「いいや!汐海さんは今回の
学級裁判は欠席です!欠席しないとこいつがどうなるかわかんないよ……?」
「ッ…狛枝先輩……!?」

モノクマから手渡されたのは狛枝先輩の写真。
大神さんがそうだったように、わたしにもこいつは人質を取るのか…。
狛枝先輩の写真なんて出されたらどうでもいいなんて言える状況じゃない、大神さんもこんな気持ちだったのか……悔しい!

「じゃあ汐海さん、しばらくここにいてくれるよね!」
「…江ノ島さん、あなたは何がしたいの…!」
「だから絶望って言ってんじゃん!」

そう言い残してモノクマは去って行く。
それと同時に学級裁判を始めるというアナウンスが。
……とりあえず、ここから出ることは許されていなそうなので部屋で今後について考えてみる。
まず、黒幕は江ノ島盾子。
なぜこんなことをしたのかは不明だが、わたし達の記憶を奪いモノクマとしてこの生活を送らせている。
あれからどのぐらいの時間が経ったのかはわからないが希望ヶ峰学園も廃校になっているし、シェルター化計画が動いていると考えて間違いはない。

わたしって、この学級裁判が終わった後、……どうやってみんなに顔を合わせればいいんだろう。
やっぱり何も思い出せませんでした、としか言えないのかな……。
悔しい、大神さんはモノクマに立ち向かったっていうのに、わたしにはやっぱり何もできない…!
……それでも、外で生きている狛枝先輩がどうなるかもわからない。
でもわたしが黙っていたら、結局霧切さんが無茶を冒さなければいけない、それじゃあ記憶を思い出した意味がない!
待って、……今ならモノクマは、学級裁判でわたしの監視は行えないはず。
わたしは急いで、霧切さん宛てに手紙を書いた。
思い出したこと、黒幕のこと。
あんまりたくさんのことは書けないので、短く簡潔にまとめて、霧切さんの部屋のドア下に隠しておいた。
…今、わたしにできることはこれしかない。
そういえば、学級裁判って誰が……霧切さんが死んでいたら何の意味もない……。
電子生徒手帳を開いてみると、そこに被害者の名前は一切なかった。
仕方なく植物庭園まで向かうと、そこには黒焦げになっている死体が置いてあった。
誰だかわからないと思ったが、手には赤いつけ爪とフェンリルのタトゥー。
……間違いなく、戦刃さんだろう。
赤いつけ爪が物語るのは、やっぱり戦刃さんは江ノ島さんと入れ替わっていたこと、そして…この死体は今日殺されたものではなく、最初の殺人が起きて、モノクマに見せしめで殺されたときだ。
…戦刃さん、江ノ島さんに殺されたの……?
実の姉まで殺すなんて、ますます江ノ島さんの考えが理解できない。
残酷で不可解で、それでいて狂っている。
それじゃあ今回の学級裁判は、何の為に開かれている…?
…モノクマは、記憶を取り戻したわたしにその事を言うなと伝えてきた。
なら、モノクマにとって都合の悪いこととは何か、……霧切さんの、今までの冴え渡る推理、学園の謎を暴こうというあの姿勢だろう。
……超高校級の探偵である霧切さんが、今回の学級裁判で、江ノ島さんによって貶められようとしている…!
急いで学級裁判の部屋へと向かう、エレベーターがゆっくり動くのももどかしく、とにかく走り続けた。
扉は開いていて、開けると投票タイムが終わっていた!

「みんな!!」
「…汐海さん……!?」

わたしの顔を見て慌てるみんな、そりゃ学級裁判出てなかったんだし、下手したらあの死体の正体がわたし…なんてことも疑われてたかもしれないしね。

「投票は?あの殺人はこの中の誰で、も…ッ、」
「もー!汐海さんうるさい!折角のオシオキタイムなんだから静かにしてよね!」
「え…?おしおき、って……どうしてよ!?」

わたしの抵抗も虚しく、……なんと苗木くんがモノクマに連れて行かれる。
霧切さんを守るため、苗木くんは…。
苗木くんの処刑が開始される。
霧切さんは顔を歪めながらその光景を見て、……あれ。
苗木くんの処刑方法は圧殺だった、…でも、苗木くんが押しつぶされる数秒前に、画面がモノクマからアルターエゴに…!
……多分、苗木くんは殺されてないはずだ、アルターエゴが助けてくれたのかな。
モノクマはそのことに激怒したが、あの下はゴミ屋敷のようなものだから、まあそれでもいいと納得した。

「それより汐海さんさあ、忘れたわけじゃないよね?」
「…っ、……わかってる」

わたしにだけ聞こえるように、こっそりと耳打ちをして去って行く。
どうかあのメモがバレませんように、……とにかく、まずは苗木くんを助ける方法を見つけるのが先だ。


「汐海ちゃん、生きてたんだね…!」
「うん、苗木くんのおかげだよ…だから、苗木くんを助けなくちゃ」
「……そうね、汐海さんの話は後よ」

その足でわたしたちは脱衣所へ向かい、苗木くんを助ける方法を見つける。
最も恐ろしいのは餓死だ、タイムリミットも迫っている。

「……多分、あそこはトラッシュルームの下に繋がってると思う」
「そうね、……ただ、モノクマから目を逸らす為にはその道を使うのは得策じゃないわ」

すると霧切さん、ゴミとして苗木くんのところに行けば問題ないと言い出した…どういうことだ。
それはそれで危険が伴う。
でも霧切さんは、苗木くんを絶対に助け出したいと言った、…どうやら学級裁判中、疑われていた対象を無理やり苗木くんにこじつけてしまったらしい。

「それじゃあ、朝日奈さんと葉隠くんで私をゴミに捨ててちょうだい」
「…すごい、意味わかんない台詞だけど……」

ありったけの食料を持って、霧切さんは苗木くんの元へと向かった。
残されたわたしたちは食堂で苗木くんと霧切さんを待つ。
わたしが記憶を取り戻したことは言うこともできず、重い沈黙が流れた。
あの薬を飲んだことは苗木くんと霧切さん以外知らないらしい、今回の裁判はわたしがいない以外にもおかしなところがたくさんあったので、戦刃さんが殺された状況など、それについて聞くことにした。

長い時間も終わり、苗木くんと霧切さんが帰ってきた…!!
霧切さんはモノクマに最後の学級裁判を申し込んできたらしい。
モノクマからのアナウンスでは、この学園の謎を全て解き明かし、なぜこの様な状況になったのかを説明し切ることが最後の学級裁判。
わたしも、やっぱりみんなの役に立ちたい……。
…少し考えて、わたしは妙案を思いつく。
学級裁判中なら、モノクマは他のことができないんだから、そのときに全てを打ち明けてしまおう。
そうして謎を解いたら、わたしたちは外に出られる、これなら人質の件も問題なさそうだ。
…少し楽観視かもしれないが、これ以外には方法がない。

こうしてわたしたちは、最後の学級裁判へ向けて捜査を始める事になった。


疾走する青春の絶望ジャンクフード(2)


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02/12


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