「…それじゃ捜査を、始めましょうか」

各自、捜査を始める。
わたしは捜査も何も、何がどこにあるかなんて全てわかっている。
……とりあえず、霧切さんと苗木くんを連れて脱衣所へ。

「汐海さん…無事だったんだね…」
「うん、あのね…時間がないから聞いて欲しいの。全てを伝えるのは怖い、……でも」
「わかってるわ、…これでしょう?」

霧切さんは小さな紙を見せる。
やっぱり、霧切さんなら見つけてくれると思ってたよ!
わたしが喜んだのも束の間、脱衣所にモノクマが現れる。
……全部お見通しってことか。

「じゃ、じゃあね!みんなで絶対、ここを抜け出そう?」
「そうね汐海さん、学級裁判でまた会いましょう」

駆け出すように逃げて行く。
……そういえば、この校舎の生物室ってまだ一回も入ったことがなかったなあ。
向かってみるとそこは死体安置所となっていた。
……ランプは9つ、ほらやっぱり、江ノ島さんの死体はない。
見て回るところもそこまでなく、食堂で学級裁判でどう切り出すか、それについて熟考する。
そこを通りかかった苗木くんが、椅子に腰掛けてきた。

「どうしたの苗木くん、何かわかった?」
「少しだけね、……あのさ、話せるギリギリのところでいいんだけど。汐海さんの記憶について、少し聞いてもいいかな」
「…じゃあ、少しだけヒントだよ」

話していいことと言っても、話せることは数少ない。
さしあたりなさそうな事を探しているうちに、わたしはふと先輩のことを考えた。
…そうだ、学園生活のことなら、ぼかして伝えられる。

「あのね、わたしには苗木くんと同じ才能を持ってる、大好きな人がいたの」
「すごく突然だね…」
「うん、その人は苗木くんの知り合いでもあったんだよ。…でも、2人の絶望が現れて、わたしたちはこの学園で暮らすことになったの」
「暮らすことに、…なった?」

つい口が滑る、…これ以上はだめそうだな。
本当は全部知ってるのに、全部伝えたいのに、でも伝えられないなんて…それでいて苗木くんはわたしのことを責めもしない……。
すごく、申し訳なくなった。
会話も途切れた頃、モノクマからのアナウンスが入る。
いよいよ、最後の学級裁判だ……外の世界がどうなっているのかはわたしにもわからない、それでも…わたしはもう一度外に出るって決めたんだ。
こうして、最後の学級裁判が開かれた。

「さあ!始めますよ〜、なんと今回は、ボクも参加しちゃいまーす!」
「…その前に、俺からみんなに聞きたいことがある」
「私もだよ!これって一体どういうことなの!?」
「…奇遇だな、俺も聞きたいことがあるぞ」

一斉にみんながとある写真を提示する。
それは1年ぐらい前に撮った写真だった…それぞれの持ち主の姿だけがない写真だが。
……なるほど、自分以外黒幕と繋がってると思わせる為の罠か。

「ちょっと待って、苗木の写真には私が写ってる…?」
「……それは、黒幕のくだらない罠よ」
「…捏造にしても、お揃いの制服なんて手がこみすぎだよ!」

モノクマは写真が捏造でないことを伝える。
……記憶を失っているんだ、そのことは苗木くんと霧切さんがここで提唱してくれる。
信じ難い事実だが、それが本当のことであるのだから仕方がない。
苗木くんが記憶喪失の可能性を伝えると、一同は冗談にも程がある、と一蹴する。
しかし、霧切さんの推理、そして紛れもなく真実である証拠をもつわたしがいるのだ、…信じてもらうしかない。

「…じゃ、じゃあ。…本当に?私たちは記憶喪失なの?」
「そう、みんな仲良く記憶喪失!」
「ただの記憶喪失じゃない、あなたがわたし達から…それもわたし達の先輩の才能の悪用で!」

わたし達の記憶は松田先輩の技術によって奪われた。
……つまり、脳をこの人にいじくり回されてる。
その事を伝えると、モノクマは顔を歪めて笑う。
江ノ島さん…、あなたってどうしてこうなの!

「あっはっは!記憶をどう奪ったかなんてどうでもいいんだよ、それよりさあ…今って忘れてないと思うけど戦刃むくろの学級裁判なんだよね!」
「戦刃さんの謎なんてもう解けてる!…そうだよね、苗木くん?」
「うん…今から黒幕、お前の正体を暴いてやる!」

戦刃さんを殺したのは霧切さんでも苗木くんでもない。
犯人は江ノ島さんであり、それを証明するには入れ替わりのトリックも暴く…つまり、戦刃さん殺しの犯人を見つけるとは、黒幕の正体を暴くというのと同義なのだ。
江ノ島さんはあの夜苗木くんを殺しにいったらしい、…その時のことを苗木くんがはっきり覚えていれば、思いつくことだって不可能じゃない!

「…あの夜、ボクを襲ったのは戦刃むくろじゃない、黒幕だったんだ。…だって、その時の黒幕の手には、フェンリルのタトゥーがなかった」
「え〜、じゃあさ、それってずっと手袋をつけてる霧切さんが犯人じゃん!」
「…分かった、見せてあげるわ」

…霧切さんの手には、痛々しい火傷の痕が残っていた。
だから今まで、ずっと手袋をつけていたのか。
ともかくこれで霧切さんの疑いは晴れた、後は黒幕の正体を明かすだけだ。

「あなたが誰なのかなんて、すぐにわかることだよ。戦刃さんの死体に赤のつけ爪があったり、生物室にある死体の数だって合ってない、…それってどういうことだろうね、苗木くん」
「…そうか、分かったぞ!ねえみんな、戦刃むくろの死体の状況だけど…」
「無数に貫かれた痕、…それって、誰かさんの死体と死因が一致してるわね」
「そう、犯人は……殺されたように見せかけて今もモノクマを操っている、江ノ島盾子さんだ!!」

苗木くんが指摘する。
モノクマはそれにもかかわらずピンピンしている、……全てを指摘しなければ、駄目だということか。
江ノ島盾子である証拠…それを、全て解き明かす。
どうやら苗木くんはもう真相に辿り着いているようだ。
最初から入れ替わっていた、そんなの…初対面であるわたし達には分かりっこない。
……本来なら、江ノ島さんになりすました戦刃さんがモノクマに逆らって殺されるというシナリオは、本当は殺されない予定だったのだろう。
なのにこの江ノ島盾子は、……こんなくだらないことをする為に、自分の最愛の人と、双子の姉まで殺して……ッ!

「……終わりだ、江ノ島盾子」
「…終わり?……違うよ、これからなんだよ……」

モノクマは機能を停止し、霧に包まれる。
…派手好きの江ノ島さんがやりそうなことだ。
爆発音の後、金髪のツインテールは現れる…!


「……待っていた、私様は待っていたのよ。お前達のような人間が現れることをねえ!!」
「…江ノ島、盾子ッ!」
「あっはははははは!!そう、このアタシが全ての黒幕、江ノ島盾子ちゃーーーーんッ!!あっははははははは!!!」

江ノ島さんの笑い声が響く一方、わたし達はしばらくその状況に沈黙していた。
……さあ、外に出るまで後少しだ。


超高校級の不運が超高校級の殺人と超高校級の処刑と超高校級の絶望を引き寄せた理由(1)


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