不規則な生活が祟ったのか、何時の間にか食堂で眠っていたわたしを、揺り起こしたのは朝日奈ちゃん。
朝日奈ちゃんは真っ青な顔でわたしを見る…。

「汐海ちゃん……」
「朝日奈ちゃん…、?どうしたの?」
「さくらちゃんが、……、殺された」

……また、殺人が起きた。
とりあえず自分の目で確かめるまでは信じたくないので、娯楽室へと向かった。
そこには既に苗木くんと霧切さんが操作を開始しているらしい。
大神さんは椅子の上で眠ったように死んでいて、でもその顔は何だか満足したような、そんな顔だった。
あちこちに血痕があったり、苗木くんたちが入ろうとしたときは密室だったらしい、また謎解きは難しそうだ。
他の場所にも何かがないか調べに行く。
すると、化学室前には黄色の粉末が撒き散らされていた。
……また随分と、派手にやらかしたな。
粉末の入っていた場所を見てみると、一つだけ毒薬が消えていた。
あと、栄養剤も一つなくなっていたようだけど。


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四度目の学級裁判。
また、また殺人が起きた。
何度願おうと、その願いは踏みにじられて、ここへ足を運ぶ事になる。

「犯人は、さくらちゃんに呼び出された十神、腐川、葉隠の3人の誰かだよ!!」
「わ、私は知ってるのよ…犯人は葉隠よ……!」
「ええ、っ…何で知ってるんだべ!?」

開始早々葉隠くんが白状した。
大神さんに娯楽室へ呼び出された葉隠くんは、大神さんが自分を殺すつもりだと思って、置いてあった瓶で大神さんを殴ったらしい。
非常にあっさりしているが、朝日奈さんは早く投票を、と急かしている…少し様子がおかしい。
次に十神くんが腐川さんを問い詰めると、ジェノサイダー翔に早変わりして言うにはやはり一発殴ったとかなんとか。
確かに大神さんの打撃痕は2つだった、でもまだ何かあるはず!
だって大神さんは椅子に座って死んでいた、それに吐血した様子もあった。
ジェノサイダー翔が殴ったのもまた事実、だが大神さんはそんな2発の打撃では死んでいなかったのだ。

「では俺がこの謎を解いてやろう。これを見ろ」

あれは化学室から無くなった毒薬の瓶。
十神くんは瓶を見せびらかした後、いきなりそれを口にした……!?
意味わかんない!十神くんがこんなところで自殺…?

「勝手に殺すな」
「十神くん、それ…ちょっと借りてもいいかしら」

霧切さんも液体を舐める。
…ていうかよく見たらそれ、中身違うし。
どうやら中身は栄養剤のようだ、ほぼ確実に誰かが入れ替えたとしか考えられない。

「そして娯楽室にはプロテインの容器が入っていただろう?」
「移し替えたんでしょ、誰かが」
「そうだ、そしてそれが可能なのは…朝日奈と汐海。お前らのどちらかが犯人だ」

…………毒殺だからって化学者を疑うのやめてくれないかな!

「あのさあ十神くん…、化学者のわたしがそんなわかりやすい方法で殺すと思う?」
「別に不可能ではないだろう」
「それは違うよ十神クン!…だもし汐海さんが犯人なら、落とした粉末をそのままにして置くってことは絶対にありえないよ」

ありがたや苗木くん!
その通り、わたしがあんな危ない粉末を落としたなら真っ先に片付けを行うだろう。
あれだって十分に危険な粉末なのだ、風で口に入ったりしたら危険すぎる。
それに、あの粉末の上に乗っていた足跡とわたしの足跡も一致しないはずだ。
…となると、十神くんは朝日奈ちゃんを疑っているのか。

「そうだよ……、私がさくらちゃんを殺したんだよ!!」
「朝日奈さん…!?」

そんなはずはない、大神さんの親友である朝日奈ちゃんが…、それだけは絶対にないと思っていたのに。
朝日奈ちゃんは全てを話し始める。
毒とプロテインを入れ替えて、それを大神さんに飲ませた。
たったそれだけのことなのに、ものすごく胸に引っかかる。
……意味がわからない、あの朝日奈ちゃんが?

「…待って、朝日奈さんはどうやって娯楽室から出たの?」
「そうだ、あの部屋は密室だったはずだよ…!」
「そ、それは……」

十神くんが激昂する。
あり得ない、朝日奈以外に犯行は不可能だ、と。
そうすると霧切さんは、わたしたちに新たなものを用意した。
あの瓶から、ガラスの破片が出てきたのだ。
…ガラスの破片。
化学室には特に割れてるガラスなんてなかったはず、壊れたガラスと言えば苗木くんが娯楽室へ入るために破ったあのガラスの窓だけだ。
ということは…。

「それ、もしかして密室状態のとき、娯楽室の中にあったってこと…?」
「その通り。つまり大神さんは自分で毒を用意して、自分で娯楽室の鍵を閉めたのよ」
「違うよッ!さくらちゃんは私が殺したんだよ!!」

朝日奈ちゃんの狙いは何だ。
…多分、今の霧切さんの推理からわかるのは……大神さんの自殺だ。
それを隠して、わたしたちの誰かに犯行を押しつけ、何がしたい……?

「朝日奈さん……もう、終わったんだよ」
「終わってなんか、ない…ッ!っ、さくらちゃんは……っ」
「…終わったんだよ……」

投票タイムが終わり、朝日奈ちゃんの真意を尋ねる。
朝日奈ちゃんはとある白い紙をわたしたちの前に突き出し、泣き叫んだ。

「これ、さくらちゃんの遺書だよ。……さくらちゃんだって、普通の女の子なのに、っ…みんなが誰もさくらちゃんのことわかろうとしないで、絶望して…っ!!」
「朝日奈さん…」
「だから、…さくらちゃんは私たちが殺したようなものなんだよ!そんな私たちが生きていいわけがないんだっ…!!」

朝日奈ちゃんはわたしたちを道連れに全員で心中を謀っていたのだ。
…わたしも、二人から避けてた部分もあるし、それを責める義理なんてない。

「あのさあ、盛り上がってるとこ悪いんだけど、大神さんの本物の遺書はこっちなんだよねー」
「……っ!?」

今度こそ全員が固まる。
じゃあ朝日奈ちゃんが持ってるその紙は、モノクマが用意したもので…?
モノクマが本物の遺書を読み始める…、大神さんは自分が死ぬことで、もう誰も殺しあわなくていい状況を、黒幕に立ち向かう状況を作ろうとしたのだ。

「なのに、オマエのせいで殺人みたいになっちゃったじゃん!これって、大神さんは無駄死にだよねえ?」
「無駄死になんかじゃ、ない……ッ!」
「…そうだぞモノクマ。俺はこのゲームからもう降りることにする」

あの十神くんが、ここにきてついに。
これは間違いなく大神さんのおかげだ、ほら!無駄死になんかじゃない…大神さんの死をもって、わたしたちは黒幕へと立ち向かう。
もう絶対に誰も殺さない、わたしたちは全員でここから抜け出す…!

「いいもん、まだオシオキがあるからね!」
「…え、?だって今回は、誰も犯人じゃ……」
「だーかーら、今回はスペシャルゲストー♪」

モノクマが用意したのは巨大なショベルカー。
その下に設置されているのは、…アルターエゴ!!
処刑と評したその残虐な行為は鳴り止むことなくアルターエゴをスクラップしていく。

「そいつ、邪魔だったんだよねえ…それじゃ、大神さんの遺書の続きでも読みますかー!」

モノクマはアルターエゴをスクラップした後、何食わぬ顔で再び遺書を読む。
ふと、そこにはひっかかる内容があった。
『黒幕は、我らの体に何かを……』これ以上は秘密らしい。
必ず一矢報いる、と最後に大神さんは言い遺した。




「ねえ、霧切さん」
「何かしら」
「あのさ…霧切さんは自分の才能が思い出せないって、言ってたよね……?」

美術室に落ちていた死んでいるはずの写真。
思い出せない才能。
学園のパソコンに隠されていた記憶に纏わる薬のデータ。
それとわたし名義の注意書き。
山田くんが遺した『出会う前に出会っている』という言葉
そして大神さんの遺した『黒幕は我らの体に何かを……』


……もしかして、わたしたち全員…何か忘れてる?


オール・オール・アポロジーズ(2)


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02/11


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