「そんで諷…でいいのよね、何で学園都市に来たことわたしに言わなかったの?」
「…姉さま、私を置いて学園都市に行ったんで、……もしかしたら嫌われてるのかと思ったん、ですよ」
「…そんなことないわよ、急な話だったしね」

楓がまだ実家にいた頃のことを精一杯思い出す。
学園都市に来たのは11歳、もう5年も前の話だ。

楓には兄と妹が一人ずついる。
二つ上の兄は昔から頭が良く、当然学園都市にも憧れを抱いていた。
楓もそこそこ頭は良いが、彼は所謂秀才と言う奴で、憎たらしい程に努力家だ。
そんな彼の努力の成果が学園都市にも認められ、彼はとある弱冠13歳にしてとある研究室へと迎えられた。
その年丁度中学生となる予定の楓も、両親に無理を言って兄について来たのである。
その時小学生だった諷を寮に入れるのは流石にどうかという結論で、兄と楓のみ学園都市の生徒となる、はずだった。

「…お兄さんにはもう会った?」
「お兄さんだなんて、他人行儀ですよ姉さま。…どこを探しても見つからないんですけど」
「じゃあ諷もその敬語は何なの、……やっぱり見つからないか」

学園都市にたどり着いた兄と楓の前に待ち受けていたのは、限りのない無限の地獄だった。
あの時、兄が楓を逃してから。
彼の消息は不明であったのだ。


「…あの馬鹿、死んではいないと思うけど」
「兄さまは死んでないはずです!…『書庫』にはそう書いてありますし…」
「『書庫』ねえ…まあこの際職権乱用なのは置いといて。……正直、あいつ今どこで何してるかわたしも全くわからないの、ごめんね」

街を歩きながら、ぽつりぽつりと記憶を引っ張り出す。
これは檸絽家のちょっとしたお話。

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(今回の主人公)



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