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――武田と北条、伊達、上杉の同盟が結ばれしばらく経ったある日、私は初めて城下町に出ることになった。
…というのも前々から城下町に出たいと駄々をこねていたものが、御館様の耳にやっと入ったからである。
…ってことは絶対、幸村さんか佐助さんか佐助さんか(大事な事なので2回言いました。)のどちらかが阻んでいたってことだよね。
…うん、多分佐助さんだ、間違いない。
相も変わらず躑躅ヶ崎館での私の立ち位置は良く言えば「深窓の姫君」、悪く言えば「不審者」扱いなのでいつも近くにいるのは真田の忍びの人達だった。
そのことをさり気なく佐助さんに尋ねてみると、私は秘匿しておきたいものなので、最低限の人としか関わらせてはいないということだった。
だから立ち位置も客人というよりも新入りの忍び扱いらしい。
そのため何も事情の知らない武将や女中さん達は中々、私の離れや幼稚舎に近づかないという。
…多分怪しいから。
私を「新入りの忍び」として扱っているという話をした時に「忍びってのは穢れみたいなもんだ。甲斐じゃ破格の扱いを受けてるけど、他国じゃ道具と同じだ。俺達は人ならざる人だ。」と呟いた佐助さんの顔は忘れられない。
…なんだか無表情なんだけど、すごく自分の言葉に傷ついたような表情をしていた。
反射的に佐助さんの手を取って、「そんなことない!」と否定してしまった。
…だって佐助さんや小太郎君、かすがちゃんが「道具」だなんて思いたくないじゃないか。
皆大好きな「人」なんだから。
少し涙目になった私の頭を佐助さんは優しく撫でてくれた。
その時に言われたのが「名前ちゃんが城下町に行きたいって話、御館様に通してみるよ。」だった。
…話の流れから行くと、やっぱり佐助さんが阻んでた気がする。