――城下町に行く当日、私は事前に幸村さんから用意してもらった小袖に袖を通した。

…なるべく周りに溶け込めそうな服をお願い。

そう注文していたのだが、紅の色が少し入っていて町人向きじゃない気がする。

自分なりに着てみた時、襖が開けられた。

…このタイミングで襖を開けるのは間違いなく佐助さんしかいない。

私の予想通り佐助さんは部屋に入って来るなり、私の小袖を直した。

…なんか未だに1人でちゃんと着られないことが分かって若干、傷ついたぞ、これ。

私が内心傷ついたことも佐助さんは気にも留めずに私を上から下まで眺めた後、どこかから箱を取り出した。

私を佐助さんと向かい合わせにすると、箱の中のものを取り出し始めた。


「あの…佐助さん、何してるんですか。」

「何って化粧に決まってんじゃん。このままじゃ、その小袖に顔が浮いちゃうでしょ。この時代の化粧の仕方分かんないだろうから、俺様がやってあげる。」

「…あれ、佐助さん。もしかして女装癖が……。」


 私が言いかけた途端、物凄い勢いで頭を叩かれた。

顔を上げると、物凄い笑顔の佐助さんと眼が合った。

…完全に怒っていらっしゃる。


「名前ちゃんはほんっとーにお馬鹿さんだねぇ。諜報も立派な任務なの。場合に寄っちゃ、女装だってすることもあるさ。ほら、そんなことはいいから顔上げて。アンタの馬鹿な話に付き合ってたら日が暮れちゃうでしょうが。」

「…ひゃい。」


 頬をむにっと抓られたまま、佐助さんの手によって強制的に上を向かされた。

…あれだ、報復に変な化粧をされては敵わないから大人しくしておこう。

私は降参という風に両手を上げると、佐助さんのされるがまま化粧を施された。



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