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家に帰ると、早速、ケーキを冷蔵庫に入れる。
一瞬、シャトレ―●のケーキを有名武将の方に出すのもなと一瞬考えたものの、もう幸村さんに散々粗食を馳走してしまっているので今更だと思い、考えないことにした。
そのうち、1ホールだけ取り出し、切り分けて出す。
その間に佐助さんが紅茶を淹れてくれていた。
更に夕飯の下拵えまでしてくれていた。
今日は鍋だ。
おそらく何か変なものが入っていないかと伊達さん達が警戒しないためのメニューだろう。
相変わらずの気の利きようと手際の良さである。
伊達さんと片倉さんは初めて見るであろうお菓子に警戒しているようだ。
一方、幸村さんは涎を垂らさんばかりのキラキラした顔で「よし」の合図が出るまで食べるのを待っている。
わんこだ…ここにわんこがいる。
以前来た時にはロールケーキを出したのだが、幸村さんは大層生クリームとスポンジケーキを気に入ってしまった。
多分、その時の味を思い出しているのだろうか、キラキラしている。
「名前殿……頂いてもよいか?」
「いいですよ、幸村さん。伊達さん達もどうぞ。さっき片倉さんにお見せした通り、1つのものを切り分けてお出ししたものです。」
「…これは食えるのか?」
「政宗様、お気を付けください。異世界とはいえ、ここは真田の地。易々と出されたものを口にしてはなりませぬ。」
「片倉殿、警戒せずともよい。佐助もこちらでは某の忍として仕事しておらぬゆえ、ごゆるりとなされよ。」
幸村さんはあっという間にケーキを平らげると、片倉さんにそう諭す。
一見、幸村さんが格好良く見えるが、視線はちらちらと片倉さんのケーキを見ているのが分かる。
その視線に気づいた私は幸村さんに自分の分のケーキを差し出す。
それを見た幸村さんは喜んで2つ目のケーキを食べ始める。
幸村さんが勢いよく食べるのを見て、伊達さんも片倉さんの制止を振り切ってケーキを食べ始める。
主が食べ始めるのを見て、片倉さんはため息をつき、ケーキに口をつけた。
「おい、名前。What is it made from?」
「あ、小麦粉と卵と砂糖とバターなど混ぜて出来ていますよ。ここで作ることもできますけど、私が作るとあんまりうまくスポンジが膨らまないんですよね。ちなみに佐助さんはめっちゃうまいです。」
「ほう……卵を使うとは中々、贅沢な食べ物だな。奥州で同じものを作るのは不可能だ。」
本当に佐助さんは何でも作れるようになった。
あまりに何でも作れるので本気で現代人かと思ってしまう。
というか私、あんまり台所に立たせてもらえない…あ、何故か悲しくなってきた。
史実通り料理ができるという伊達さんと片倉さんに対して、現代のお菓子作り講座を開いていると、さっきまで幸村さんの世話をしていた佐助さんがこちらを見ていた。
やっぱりお菓子作り講座は君がやるべきだよな、うん。と思い、バトンタッチをしようと佐助さんに話しかけようとするが、その前に食べかけていたケーキを掬ったフォークをこちらに向けられた。
一体、どういうつもりなのか。
佐助さんの表情を読もうとするが、さすが現役の忍び。
笑顔の裏で考えている意図が読めない。
観念してケーキを口に含むと、幸村さんのお決まりの台詞が耳を劈く。
「…佐助さん、一体、どういうつもりですか。というか幸村さん、止めなくていいんですか?」
「いやー…あまりに名前ちゃんが竜の旦那と親しくしていたものだから、妬けちゃったんだよね。竜の旦那、返してもらえる?」
「好きにしろ。テメェんとこの痴話喧嘩に付き合ってちゃこっちの身が持たねーよ。」
悪びれもなくけらけらと笑う佐助さんに対し、「付き合っていられない」というばかりに首を振る伊達さん。
というか嫁っていう勘違いをなんか正せていない気がする。