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19 「所変われば品変わる」




――夕飯の時間になり、皆で鍋をつつく。

最初は見慣れない食べ物に戸惑っていた伊達さんも片倉さんも勢いよく食べる幸村さんの姿を見てか、鍋に口をつけ始める。

佐助さんは相変わらず幸村さんの器に野菜を入れたり、私の器に肉を入れたりと大忙し。

それでいてちゃんと自分も食べているというもんだから驚きだ。


 食事が進むにつれて、こっちの世界に慣れてきたのか、それともこっちの世界の野菜が珍しかったのかいつの間にか片倉さんの野菜談義が始まっていた。

適切な野菜の選び方から調理の仕方まで丁寧な解説を執り行っている。

それを聞いた佐助さんは熱心にメモを取っている。


まるで主婦の井戸端会議のように見えてならない。


そう言葉にしたら恐ろしいことを考えてしまった私は人知れず笑いを堪えていた。

そんな私を見てなのか、伊達さんは声をかけた。



「見ろよ、小十郎の奴。すっかりこっちの世界に馴染んでやがる。」

「いや、伊達さん。あれは馴染んでいるというより、野菜に興味が向いているだけだと思うんですけど。」

「名前、政宗でいい。猿といい、小十郎といい……こっちの世界に来てから、面白いものが見られるな。特に猿…お前、一体何したんだ?」

「特に何もしてませんよ。初日に苦無は向けられましたけど。それ以外は私、忍びの佐助さんの姿、見たことないんです。何かしたっていう話なら、こちらに来る前に会ったっていう井戸の住人が何かしたんじゃないですか。佐助さんも幸村さんもここに来る前に会ったとは聞いたんですけど。伊達さんは会っていませんか?」



 私の話に首を傾げる伊達さん。


やっぱり覚えがないのだろうか。


別の話を振ろうと思案する私に伊達さんは言った。



「「うぃるこめんいんえりじうむ。」奴は俺にそう言った。In dream ただし、夢の中でな。」

「うぃるこめん…もしかしてドイツ語ですかね。」



 聞きなれない言語の名前に伊達さんは眉を顰める。

そんな伊達さんの前で紙を取り出し、ボールペンで記してみる。


「Willcomen im Elysium」――ドイツ語で「楽園へようこそ」といったところか。


パラダイスではなく、エリジウムつまり死後の楽園、理想郷を指しているところを見ると、異次元ではあるが、未来に来ていることを暗に井戸の住人は指しているのかもしれない。


思案していると、いつの間にか野菜談義を終えたのか小十郎さんと佐助さんもこちらを見ている。


妙なことをしていると思ったのだろうか。



「「Welcome to Elysium or Elysion.」…多分、彼はそう言ったんだと思います。ドイツ語という南蛮の言語の始祖となる言語で。井戸の住人はおそらく生前はドイツ語圏内にいたんだと思います。」

「「理想郷へようこそ」か……妙なことを言いやがる。それよりお前、南蛮語だけでなく、他の言葉も分かるんだな。」

「伊達に大学まで行っていませんからね。この世界の日の本は殆どの人が教育を受けていますから、驚くことではないです。」

「戦もなく、日の本のほとんどの奴らが教養を受けている…か。確かに俺達が目指す理想郷の形には近いかもしれねぇな。」

「先人達が後悔や失敗をしながらも造ったのが今の日の本ですから。」

「…異世界とは聞いていたが、ここは未来の世界なのか?」



 …あ、異世界としか説明してなかった。


どう説明しようか悩んでいると、佐助さんは私の説明を補足するように続ける。



「違うよ、竜の旦那。俺様達の世界はあくまでもあの「ゲーム」の中だ。現にこっちの世界では、徳川の旦那が天下統一した時には御館様も毛利の旦那も存在していない。…似たようなところはいくつも存在しているけど。第一、こっちの世界では俺様の存在は「架空」扱いになってる。」

「うむ、某もこちらの「真田源次郎幸村」について調べてはみたが、こちらの「真田幸村」は御館様に仕えてはおらんかった。」

「…って幸村さんも知ってたの?」

「名前ちゃんからもらったスマホで大分前に調べたんだ。」



――道理で今までこの世界のことについて何も聞いてこなかったわけだ。


この世界とあちらの世界の差異について、佐助さん達と伊達さん達が話し合っている間に、私はお風呂の準備をすすめる。

私が伝えるよりも、佐助さん達が伝えた方があの2人は信用してくれるだろうし、理解も早いだろう。



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