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早いもので、佐助さんが初めてこの世界に来てから1年が経った。
その間に幸村さんを始め、色々な方と出会い、仲良くなった。
中には家族同然のように仲良くなった人もいる。
恋人兼お母さんの佐助さんをはじめ、弟の幸村さん、政宗さん、お父さんの片倉さん。そしてお兄ちゃんの慶次さんとmy honeyのかすが。
佐助さん達の世界とこの世界の繋がりがなくなった時――私はきっと泣くだろう。
妙に優しくしてくれる竹中専務に洗いざらいお話しして泣くだろう。
なんせ彼らにはそれだけ沢山のものをもらっているのだから。
実の家族とも実の幼馴染や友人とも縁が薄い私にとってのかけがえのない存在――
私は鬱蒼と生い茂る森の中を歩いていた。
遠くて近い闇。
ただただ薄暗い森の中に井戸があった。
覗き込んではいけないと頭では分かっているのに、思わず覗き込んでしまう。
そして――井戸の中に落ちた私は彼と出会った。
銀髪の髪にタキシード姿。井戸の底で出会った不思議な男。
ああ…彼が佐助さん達の言っていた井戸の住人なんだな。
『Guten Abend. …君も気づいているかい?もうすぐElysionが終わりを告げる。彼にとってのElysionはAbyssに生まれ変わるんだ。』
『貴方が井戸の住人さん?それってどういうこと?佐助さん達はどうなるの?もうこの世界にこれなくなるの?』
『歴史は改竄を許さない。元の鞘に収まるだけのこと。君は…それは望んでいないのかい?』
『分かっています。戻るべき時期が来るってことくらいは。でも…私は……。』
『それなら選べばいい。捨てるべきものは何か、失うべきものは何か。君選ぶ権利がある。君にとって本当に大切なものって何かい?』
『私にとっての本当に大切なもの……。』
まるで禅問答のように井戸の住人は私に問う。
本当に大切なものを選び取る。
私にとっての本当の大切なものは…――
『…本当に大切なものは私が紡いできた絆。あの人達はゲームの登場人物でも私に色々なものを与えてくれた。家族だってくれた。恋だって教えてくれた。愛だってくれた。』
『…もう心は決まったようだね。ならば、おいきなさい。君のRomanを紡ぐんだ。』