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31 「蒼と白の境界線」




 俺様が逃げた先はかすがと前田の風来坊が休憩している場所だった。

かすがはいつもなら口にはしないようなフラッペを美味しそうに食べている。



「いいなぁ、かすが。俺様にも一口くんない?」

「誰がお前になどやるものか。」

「忍びの兄さん、俺のでいいならあげようか?」

「…前田の風来坊のはいいや。」

「ひでーっ!」



…何が楽しくて野郎のをもらわないといけないのさ。


風来坊の申し出を無視して、空いている席に座る。


やっぱりこっちの夏は暑いもんだね。

温暖化ってやつの影響か?


何となく海を見ていると、かすがに声をかけられた。


…珍しいこともあるもんだね。



「…佐助。真田から話は聞いた。名前をこっちに連れてくる計画に私達も参加させてほしい。」

「え?かすがのところにも話がいってんの?どれだけ話を通すのが早いんだよ…うちの旦那は。」

「かすがちゃんだけじゃねーぜ。俺も混ぜてくれよ。俺だって名前ちゃんの「家族」なんだろう。何度もこっちに呼ばれてこうやって遊んでると、情が移っちまうっていうかさ…もしこの奇跡が終わっちまって、名前ちゃんに会えないって思うと…寂しい。いつの間にか俺達にとって名前ちゃんは幼馴染以上に大切な人になっていたんだな。」



 そう言った前田の風来坊はどこか穏やかな目をしていた。


まったく俺様以外にもこんなに好かれるなんてさ…名前ちゃんもどれだけ悪女なんだか。



 早速、計画について打ち合わせしていると、名前ちゃんが凄い勢いで走ってきた。

やっとのことで俺様を見つけられたからなのか、息切れはしているが、瞳はキラキラ輝いている。

…なんか真田の旦那を思わせる顔だなと思っていると、かすがにいきなり抱き付いた。



「かすがにフォーリンラブ!やっぱり水着凄い似合ってた!選んだ私、天才的!今すぐ付き合おう!というか結婚してください!」

「…何だかわからないが、ありがとう。名前もその水着、似合ってるぞ。」

「かすがちゃん……!」



 おいおい、なんだかいつもと逆になってないか!?


かすがに対して、薔薇を飛ばす名前ちゃん。


これは若干、引く。


前田の風来坊も同じようなことを思っていたようで呆れた表情を浮かべた。

そんな風来坊をかすがに抱き付いたままの名前ちゃんは見ると、つまらなそうな表情を浮かべる。



「水着の綺麗なお姉さんがいないから、慶次さんが振られる瞬間が見れないな、残念。」

「ってひでーよ!お前ら夫婦そろって酷いよな!」



 名前ちゃんの言葉に傷つく前田の風来坊。


これだけ名前ちゃんに弄られているにも拘らず、名前ちゃんを「幼馴染以上の大切な人」と称するなんてどこか風来坊は変わっている。


名前ちゃんはかすがに一頻り抱き付くと、今度は俺の方を見やる。


名前ちゃんがやりたいことは分かってるから、先手を打たなきゃ。



「佐助さん…私。」

「名前ちゃん、いくらでも名前ちゃんのやりたいようにやっていいよ。」

「…本当ですか?」

「但し…同じこと後で俺様が名前ちゃんにやってもいいならね。」



――名前ちゃんの顔が見る見るうちに朱色に染まっていく。


そう…その顔が見たかったんだよね、俺。



「佐助さんの破廉恥!」



 そう言い捨てて、名前ちゃんは走って行った。

かすがと風来坊は訳の分からないまま、俺を見やる。

俺はただ楽しみながら、走り去る名前ちゃんを見ていたのだった。





――「蒼と白の境界線(ひと夏のバカンス)」

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