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32 「合縁奇縁」




――風邪薬を飲んで、御粥を食べてぐっすり眠った身体は大分、楽になった。

熱も下がっているし、節々の痛みもなくなっている。

完全に回復した身体を動かそうと起き上がると、部屋の外側が幾分か騒がしいように感じられた。


…佐助さん、誰か呼んだのかな。

きっとあんまりにも長い時間眠っていたものだから、話し相手に誰か呼んだのかもしれない。


とりあえずここまで看病してくれたことのお礼を言わなければと思い、部屋の扉を開けた。



 そこには私が「家族」と呼んでいた人達が勢揃いしていた。

私が起きてきたことに気付くと、そそくさとかすがと慶次さんが佐助さんを押しやるように前に出す。

押し出された佐助さんは極まりが悪そうな表情を浮かべたまま、押し黙っていた。

その空気に耐え切れず、幸村さんは大声を出した。



「佐助、もう俺は我慢ならぬ!お前が言わぬのなら、俺が言うぞ!」

「幸村、ちょいとは待ってあげてくれよ!」

「慶次の言うことは尤もだ。真田、猿飛に最初に言わせてやれ。」

「…おい、小十郎。面白いもんだな。」

「全くですな。おい、猿飛。テメェが言い出したことだ。テメェが先に言わねぇでどうする。」

「…分かったよ。まったく…本当に外野がうるさいんだから。ちょいとはムードって奴を知らないもんかね。」



 佐助さんはやれやれという風に肩を竦めてみせると、ふと真面目な顔をしてみせる。


その様子はまるで学生の告白のようで当事者ながら見ていて微笑ましい。

一体、何の話をしようとしているのだろうか。


佐助さんが話し出すのを待っていると、佐助さんは唐突に問いかけた。



「もし俺達が名前ちゃんに名前ちゃんの世界を捨ててくれって言ったらどうする?」

「私の世界を捨てる?……どういうことですか?」

「俺は名前ちゃんを俺達の世界に連れていきたい。だけど、名前ちゃんにとってそれは片道切符。つまりこっちに戻る手立てがないんだ。」



 佐助さんの言葉を聞いて、私は思い出した――…井戸の住人と夢の中で会ったこと、そしてその時に話したことの全てを。



「…もう帰る時期が近いんですね。分かっています、私も夢の中で井戸の住人と出会いましたから。」

「…井戸の旦那と?」

「それからもう心は決まっています。私の本当に大切なものを守るために…私の家族を守るために。私は佐助さん達と一緒に行きます。」



――私の言葉を受けて、片倉さんが至極真面目な顔で私に問う。

その声色は実の父親のように心配したようなものだった。

そしてそこはかとなく言い方がいつもより丁寧だった。



「お前はそれで後悔しないんだな?こっちの家族も友人もお前は手放すことになるんだぞ。」

「ええ、もう決めましたから。それに皆さんが心配しているようなので、言っておきますけど…私の家族は実は離婚…離縁といった方が分かりやすいでしょうか。お互いそれぞれの道を歩んで、今はそれぞれ別の家族と幸せに暮らしていますから。友人も生まれたところには何人かいましたけど、親が離婚してからはずいぶん疎遠になっているんです。だから、今の私には貴方達が「家族」なんです。」



 私は一息でそこまで事情を話すと、皆の方を見やる。

すると見渡す間もなく、佐助さんに抱きしめられる。

その雰囲気はどこか幸せそうな様子だった。

佐助さん越しにかすがが見えたが、涙を目に溜めて震えている。

そしてその肩を慶次さんが抱いていた。慶次さんの表情もすごく嬉しそうだった。

背後では「やりましたぞ、御館様!」と騒ぐ幸村さんを諌める片倉さんの声とそれを見て大笑いをする政宗さんの声が聴こえた。


…やっぱりここが私の場所なんだな。

そう思って、私は目を閉じ、佐助さんの腰に腕を回した。



 幸せに浸っていると、佐助さんが私をほどいて向かい合わせにする。

佐助さんの顔を見ると、その頬は幾分か赤い。



「俺様と…いや、俺と夫婦になってくれる?」

「今更ですよ、佐助さん。佐助さんこそいいんですか?向こうの世界じゃ私は行き遅れですし、第一、家事も仕事もまともにできませんよ。佐助さんの負担にしかならないかもしれませんし。」

「そんなの気にならないくらい、名前ちゃんが好きだから大丈夫。それより名前ちゃんも向こうの世界に行ってから、まだ会ってない奴…例えば鬼の旦那や風魔、毛利の旦那に心変わりしても、俺様離してあげないよ?それどころか名前ちゃんを閉じ込めてしまうかもしれない。」

「…相変わらず佐助さんの愛は重いですね。そんなのこっちの世界で十分思い知らされたので、大丈夫です。私の家族もいるんですから、佐助さんがそこまで病んでしまう前に、皆が助けてくれますよ…私も佐助さんも。」



――私は新しい世界で、新しい家族と生きていくことを決めた。


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