やっぱり実は夢なんじゃないかと、突然世界が変わってしまってから何度も思った。
べただけど、頬をつねってみたし、わざわざつねらなくても不注意で体をぶつけてしまった時にはきちんと痛みを感じた。
夢の中では痛みを感じることはないらしいから、痛いと自覚するたびにああこれは現実なんだなとなんだか納得してしまった。
どうでもいいことだけど、昔夢の中ではなぜ痛みを感じないのかについて調べてみたことがある。秒でやめたけど。
意外だったのは、夢で痛みを感じないことについて割と多くの論文が出ていたこと。みんな気になることは同じなんだなと思ってしまって、少し笑ってしまったのを覚えている。
論文の内容は目が滑って全く頭に入らなかったけど、頭のいい人たちが「夢では痛みを感じない」って提唱してるのだから、そうなんだろう。知らないけど。
だから、何度夢ではないかと疑っても、結局現実だと思い知らされて、世界が変わってしまってから自分なりに紆余曲折して頑張ってきたと思う。
だけどまさか、“五条悟”が存在する世界だなんて、誰が想像できたんだろう。
私の世界が変わったのではなく、“呪術廻戦”という世界に私が入り込んでいるんだと、あの夜の出来事で気付いた。
じゃあなおさら夢なんじゃない?って思うけど…
そういえば昔どこかの入試問題で出された「この世が夢でないことを証明せよ」って問題、今の私ならどう答えるんだろうか。
「……考えるのやめよ…」
幸いにも、あの日遭遇してしまってからは、一度も会っていない。
会ってしまったところでどうしていいかわからないし、何しろこっちは『なぜか名前を知っていた不審者』になってしまっている。
というか、呪術廻戦って結局どんな話だっけ?友人が話す内容に適当に相槌をうって聞いていたから、正直内容はさっぱりだ。
心の中で友人に詫びると同時に、自分の適当さ・馬鹿さを猛省した。
とりあえずジャンプって言ってたし、呪術廻戦って名前的にも多分戦ったりとかしちゃう系なはず…多分。呪術って何だろう…、呪い?お札とか使っちゃう系なのかな…多分。“五条悟”は最強って言ってたから、めちゃ強い人なんだろうな…多分。
…“五条悟”が最強てことはラスボスか何かなのかな…ってことは“五条悟”の周辺ってやばいんじゃない?多分。
ジャンプの強い人って大概戦い挑まれたり、よくわからん盛大なことに巻き込まれたり、もしくは自分から巻き起こしたりしてるよね…?
「…よし、決めた」
次に“五条悟”に遭遇しそうになったら即座に逃げよう。
ただでさえ不本意ながらも不審者として認識されてそうだし、その上こんな訳わかんない世界で、さらに意味がわからないことに巻き込まれてたまるか。
まあでも、世界が変わってから数か月こっちで暮らして、今まで会わなかったんだから、これから会うことがあったとしても確率は低いでしょ。
そう、思っていたのになあ………
「やあ、また会ったね」
目の前に立つのは、あの夜に見た黒ずくめの男。
意図された対峙
にこやかな声色とは対極の私の相貌