朝がくる前に

03.夜半

役所で住民票の確認ができないと告げられてから、早数週間がたった。


その場を作り笑顔と適当な理由で切り上げてから、役所を出、どこに向かえばいいのかわからずとりあえず元来た道を戻った。




頭の中はもちろん混乱しており、なぜ?と何度も考えたけれど、事実は自分の存在証明がないこと、自宅もないこと、友人も存在しないこと―――――




来た道を戻り、昨夜宿泊したホテルに再び戻ってくるころには最早一周まわって脳内は冷静だった。




結婚とか…、してないどころか彼氏すらいないんですけど……



今更だけれども一人頭の中で窓口の人へ突っ込みを入れられるくらいには、どうやら私はたくましかったらしい。






ホテルについてからの私の行動は早かった。


事実を全て受け入れられたわけではないし、現状を理解できたわけでもない。


だが生きていくためにはとりあえず衣食住を確保しなければならない。


もう一泊追加し、案内された部屋でWi-Fiに接続する。




とりあえず所持金…、これだけしかないか……、これクレジットカードとか使えない…よなあ……



何せ住民票がだせないのだから、クレジットカードの情報もないのだろうし、ということは銀行に預けていたお金も使用できないだろう。



お金…お金をなんとかせねば…
あとしばらくはとりあえずホテルに泊まるしかないか…
安いホテル探そ、それから履歴書買いにいかないと…





そこからの行動は早かった。




履歴書を書き、どうせならと学生時代にしたくてできなかった本屋さんに面接に行った。
住所欄はしばらく寝床にしようと思っているホテルの住所を書いた。


本当なら正社員で働けるのが理想だけれども、存在の証明ができないため諦めざるをえなかった。


アルバイトでフルで働いたとしても、稼げる額なんてたかが知れているし、ましてや福利厚生などあるわけもない。
うちの会社給料安すぎ、と同期と愚痴っていた自分を説教したくなった。


学生時代本屋さんに憧れたこともあり、志望動機も語りつくした私は、運がいいことにすぐに採用された。



食事に関してはとりあえずホテルの水は飲めるし、宿泊者のみが使用できる無料のドリンクバーもある、あとは節制に節制を重ねて一食の食費を抑えるとした。


服装ももともと会社帰りだったこともあり、スーツとシャツはあった。
寝間着はホテルのものを使用するとして、働くためにもう数枚安めのシャツと、黒のパンツを購入した。


この時点でもう所持金は底をついたが、採用され働き始めた時期が給料日が近かったことと、店長に頼み込んで給料を前借させてもらったのもあって、なんとか生きていくための算段を整えることができた。












もうすぐ、帰れなくなってから一ヶ月か…






想像はしていたが、本屋さんは立ち仕事に加え、書籍類を運ぶため結構重労働だ。



今日も開店から閉店まで一日働き通しで、疲労感を抱えながら岐路に着き、睡眠欲を
なんとかこらえ、シャワーを浴び、ベッドへ入った。



部屋は真っ暗にしているが、カーテンの向こうから町の明かりが漏れている。




外の喧騒を暗い部屋で聞きながら、この疲労感は働いているだけのものではないと思いながら、来る明日に備えて目を閉じた。









身一つで始まった、新しい暮らし
正しいのか間違っているのか、それすらもわからない










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