男――アラストル・ユーズベルト――が朝戸雪弥に出会ったのは偶然である。

その時アラストルは、今まで一度も信じてはいなかった神様とやらに感謝の祈りを捧げてもいいとすら歓喜した。

そうそれは、言うなれば一目惚れだったのだろう。

そして、この偶然は偶然でなく、運命なのだと信じた。



◆◆◆



イタリアを拠点に、欧州一体を牛耳る超巨大なマフィア組織――シルフェニア――。
そのボスが彼の男、アラストル・ユーズベルトだ。

アラストルは今、両手で数える程度にしか教えていない、厳重に隠匿された隠れ家にいる。

表向きの名義は、アラストルの数ある肩書きの一つ、世界でも有数の証券会社――アイリス――の若き社長の別荘となっているが、真実は違う。

この邸宅は、全て雪弥のために作られたのだ。

雪弥を閉じ込める、豪奢な檻。

それがこの豪邸の本当の目的であった。

アラストル自身の本宅は別にあるが、時間が許す限りここに住むつもりでいる。
雪弥と離れる気など男には毛頭なかった。


この邸宅を知っている者は、アラストルが厳選に厳選を重ねた極僅かな人物達だけである。
その極僅かに含まれる内の一人、ディンはやけに上機嫌なアラストルを目に留めて、その奇特さに体の動きが動作不良を起こした。
驚きの余り口がポカンと開く。
……もしやあれはアラストルに似た別の誰かなのではないだろうか。目をこすって改めて見る。が、やはり姿は変わらない。あの鍛えあげられた長身と、磨かれたナイフのような銀髪はアラストルをおいて他にはいないだろう。

「……ちゅうことはほんまに旦那かいな。あり得へん、別人やろ。
…や、でも旦那のそっくりさんがおるなんて心臓に悪いなんてもんやないな。魔王が二人いるようなもんやで。
……に、してもや…」

何とも珍しいことがあったものだ。
何時もは無表情か眉間に皺を寄せた不機嫌面しかしない男があんなに浮かれているなんて。
正直気味が悪い。

もしやこの、異様なまでに秘匿された隠れ家に関係があるのだろうか?
だとすればこれはやおら気になってくる。
ディンはその精悍な顔にニヤリとした笑みを刻んだ。

――もしディンがこの邸の本当の用途を知っていたならば、直ぐに機嫌の良さが何なのか分かったことだろう。
そしてきっと、その哀れな青年にアーメンと十字を切ったに違いない――――。

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