「……あれ?」

右手にアパートの鍵を握り、カンッカンッと音を鳴らしながら階段を上って自身の部屋へと迎う。
と、自室の扉前に見知らぬ男が立っていた。随分と背の高い男である。しかもよく見れば刃のような銀色の髪をしている。おそらく外人なのだろう。

どうしたのだろう、部屋を間違えたのだろうか?
と言うかなぜ外人がこんな寂れたアパートに?

疑問が駆け巡るが答えは出ない。
かと言って部屋の真ん前に立っているものだから無視することも出来ない。
しかし声をかけようにも男は外人で、やけに威圧感があるものだから近寄ることも躊躇われる。

困った。
どうしよう。
何かあったのだろうか。

雪弥の頭の中には、まさか己に用が有るなどとは欠片もなかった。

どうすることも出来ず所在無さげに固まっていると、男と雪弥の目が合った。
暗く深い、ダークブルーの瞳。

「……っ!」

囚われる。
息が詰まる。
震えが走る。

言い知れぬ恐怖が雪弥の背をぞわりと這った。
ソレはまるで巨大な蜘蛛が背中に張り付いたようで。

「……あ…の…」

搾り出した声は情けないほど掠れて小さいものだった。
男はその様子に目を細めると憎らしいほど長い足で雪弥に近づいてくる。
慌てたのは雪弥だ。
訳も判らぬ恐怖を与えた見知らぬ外人の男がやおら向かって来たのだから、慌てるなと言う方が無茶であろう。

(……ッ!こっちにくる……!?)

ヒュッと息を呑み咄嗟に目を反らそうとした雪弥を、男は視線に力を入れるだけでそれを止めた。平凡な人生を送ってきた雪弥には鋭すぎる眼光だった。
蜘蛛の糸で絡め取られた哀れな蝶のように身動ぎ一つ出来なくなる。
緊張か、恐怖か、雪弥の呼吸が浅く荒れる。

頭の中ではひっきりなしにレッドアラームが鳴り響き、緊急事態を告げているが、体はただ小刻みに震えるだけで何も出来ない。

分からない。
分からないがひたすらにこの男が恐ろしい。意味などなく、本能がアレは危険だと叫んでいた。

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