28


茜色に染まりつつある太陽が二人を照らす。
ぎこちない雰囲気ではあったが、少しだけ優しいように思えた。



日が夕陽に変わる。
ふと雪弥はアラストルの方を振り向くと、既にそこに男はいなかった。
来た時と違い、音も気配もせずに去っている。多分来た時は、わざと雪弥に気が付けさせるために音を立てたのだろう。
危険な世界に身を置く男からしてみれば、気配を消すことなど雑作もない、いや、必須技能なのかもしれない。

春も間近とは言え、日が暮れれば外は寒い。
雪弥は一度花を見て、邸へと歩いて行った。



◆◆◆



アラストルとの一週間ぶりの邂逅があった次の日。
朝食を済ませた雪弥の元に、ディンがやって来た。その手には何か白い袋を持っている。

「おーい。ちょうちょはん起きとるかぁ」
「あ、ディンさん。おはようございます」
「おはよーさん。今日はな、ちょうちょはんに渡すものがあんねん」
「渡すものですか?」

ディンから手渡されたものは、白い袋のそれだった。持ってみると、ずしりと中々に重たい。

「これ、なんですか?」
「さあ、わいは知らへんで。旦那が渡せゆうてん」
「……あの人が?」
「そうや。ま、ともかく渡したで。わいは戻るさかい」
「あ、はい。ありがとうございました」

ディンにしろケインにしろ、長い時間を雪弥と共にすることはない。
多分始めての紹介の時が最長記録だろう。
これはアラストルが多く雪弥と会えないのに、部下である二人が一緒にいる時間が長いなどと、当たり玉しかないロシアンルーレットをや(殺)らせたくなってしまうため、必要時以外は会うなと告げていたからだった。
勿論そんな裏事情を雪弥が知るはずもない。


視線を白い袋に落とす。
アラストルからの渡したい物とはいったい何だろうか。このようなことは始めてで不思議に思う。
今まで貰ってきたものと言えば、一日の食事を始めその日に着る服などで、なければ生活に困る類いのものである。至極当然のようにそれらは雪弥に与えられており、こういった贈り物の形はとってこなかった。

雪弥は今までの切り詰めた生活から余り物欲がない。そのことをアラストルも分かっているのか、宝石だ何だというあからさまなものを渡すことは一度としてなかった。
だからこそこれが何かさっぱり分からない。

「…何だろう」

ともかく開けてみないことには仕方なく、少し不気味に思いながら恐る恐る開封した。

「……え?」

その中にあったものは、パールホワイトの飾り鉢に上品な形のじょうろ、そして土、肥料と、何かの――ミニダリアの花の種と言った、そう園芸セットであった。

「これ……」

予想もつかない中身に雪弥は呆然とした。

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