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一部暴力的な描写があります。ご注意下さい。




分からない。この男の狂気が執着が、一つも分からない。

「貴方は……貴方はいったいなんなんですか」
「何、とは?」
「僕を拐って、閉じ込めて、挙句…だ、抱いたりして……。何を貴方はしたいんですか…」
「ふっ……簡単なことだユキヤ。お前が愛しいのだよ。私以外何も見ず、感じず、私だけの腕の中で生きて死んで欲しいくらいに」

その答えは、雪弥にとって理解出来ないものだった。

「……っそんな!そんなの間違ってる…。
僕は、僕は……」
「ユキヤ…」

思わず下を向く雪弥。

うつ向いて苦しそうに呟く様子にアラストルは手を伸ばすが、白い手がそれを拒んだ。

「…ぃだ。嫌いだ。貴方なんか大嫌いだっ…!」

衣を裂くような悲鳴に似た叫びが木霊する。

雪弥にはどうしてもアラストルが分からなかった。

男は自分が好きだと言うのに、何故こんな酷いことをするのか。

男が男を愛することに偏見がないわけではないが、悪いことだとは思わない。好きだから恋人をある程度束縛してしまう人も、理解出来なくはない。
だが、好きや愛してるという気持ちがあるからと言って、何をしても良いなどということは決してない筈だ。こんな仕打ちを受けて、男を好きになれる訳がなかった。


何の反応も返さないアラストルに、どうせ愛想でも尽かしたんだろうと結論づけて、踵を返そうする。
が男が雪弥の腕を掴んだ。

「待て」
「……離して下さい。僕は貴方となんかっ……!」

それ以上は、言葉にならなかった。

「……黙れっ…!」
「……か、はっ…!」

アラストルが雪弥の首を絞めからだ。

苦しくて、辛くて、なんとか引き剥がそうとするが、酸素の足りない体では爪を立てるしか出来ない。

視界が涙でぼやける。
ああ、馬鹿だな。やっぱりマフィアなんかに逆らうべきじゃなかったのだろう。
でも、多分自分は、どうしようもない意地っ張りだから、この過去に何度戻ったってきっと同じような態度をとるんだろう、根拠なくそう思った。

ああ…もう、死んでしまうのかな。そんなの……嫌だ。何も出来ずに死ぬのは。
諦めないと決めたばかりなのだ。
せめて、この男に仕返しくらい……、
そう思ってアラストルを見る。
と、そのぎりぎりと歯をくいしばって呻く表情は、何故か怒っているのに泣きそうであった。

(な、ん…で?)

怒っているのは分からなくない。けれど、どうして泣きそうなのだろうか。白みがかった頭でぼんやりと考える。
しかし、それも長く続かない。
目が霞む。ノイズが走る。

ああ、もう駄目だ……、と意識が落ちかけたところで、アラストルの指が解かれた。

「……カハッ、ケホッ!…ぅ、はっ、はぁ…はぁ……」

がくんと力が抜け倒れこむ。急激に酸素が送り込まれた肺が悲鳴を上げる。

苦しそうに咳き込む雪弥を、アラストルは苦々しげに見据えていた。
――――それはほんの一瞬でしかなかったけれど。

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