19


自然と、雪弥の顔が強ばる。
いきなりこんな拉致監禁紛い……いや、そのものをされたのだから極度に緊張しても仕方ないだろう。
寧ろ恐慌に陥ってないだけ随分とましと言えた。

ごく一般人だった雪弥に、これから行う残酷な宣告を思うと、ちくりと棘が刺さるようだ。

(まぁ、私がそんな同情を抱いて良い身ではないんですがね……)

刺さった棘を綺麗に無視して、ケインは改めて雪弥に向き直る。

「先ずは挨拶といきましょう。私はケイン・マッケン。ボス、アラストル様の秘書を勤めさせて頂てます。
そしてこちらが……」
「ディン・ディッグや。ちょうちょさんの護衛やでー。よろしゅうな」

今までずっと黙って、雪弥たちを面白そうに眺めていたディンが始めて喋る。
表面状は親しげだが、なんとなく、嫌な目だと思った。まるで観察でもされてるみたいだ。
雪弥は若干、体をディンから離した。

「(……ちょうちょさん?)僕は朝戸雪弥です。
……宜しく、お願い、し、ます…」

挨拶が詰まったのはご愛嬌である。



「それで、ボスとかアラストルとか言う人は、あの人…アルのことで、いいんですよね」

その瞬間、空気が固まった。
二人の表情がみるみる崩れていく。

「……これは、また」
「うっひゃあ…半端ないわ」
「な、何ですか…?」
「ああいえ、まさかボスがそこまで許しているとは思わず……」
「そやそや。
しっかし、あり得んあり得ん思っとったけど、こかまで来てもうたら、もうアレやでー…」
「は、はぁ……」

何をそんなに驚いているのか、雪弥にはさっぱり分からない。

しかしケインとディンにしてみれば、それは転変地位の前触れみたいなものだった。

二人から見たアラストルは排他的で、潔癖な気性だ。
人との触れ合いを好まず(セックスの時は別……というよりも、相手を人間として見ていない節がある)、認めた相手以外は名前を呼ばせないし、自分も呼ばない。
そんな人物であるから、略称やあだ名などもっての他だ。銃を撃たれかねない。

いくらお気に入りの愛人とは言え、まさかまさかそこまで許すとは二人も思わなかった、というわけである。

(……どうやら私の予想以上にボスはご執心のようですね。考えが甘かったかもしれません)
(こないな気弱そーな一般人のどこに惚れたのか知らんけど、こら気合い入れてやらなあかんな。うっかりでも犯したら、ドタマに風穴空けられてまうで)

それぞれの心中は、根本が同じであった。

「ごほん……。失礼致しました。
では、短刀直入に申しますが宜しいでしょうか」

雪弥の頷きに一拍。


「……雪弥様。貴方は、もう二度と、元の生活には戻れません」

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