18


扉を開けると、フワリ、とお腹に響く良い香りが鼻を擽った。

「……え?」

白を基調にされた広い洋風のリビング。
そこに二人の男がいた。ディンとケインである。

一人は黒髪の男。ディンは出入口だろう扉の前に、門番よろしく腕を組んで立っている。
が、にやにやと軽そうな笑みが台無しにしていた。
もう一人の金髪の優男、ケインは紅茶とケーキ、それにスープの用意をしていた。
匂いの元はおそらくこれであろう。

と、ケインがこちらを向いた。

「ああ。調度良かった。お食事の用意が出来ましたのでどうぞ御召し上がり下さい」

そう言って雪弥に近づく。
色々と理解が追いつかない雪弥は、目を白黒さしている間にテーブルまで誘われていた。気付けば美味しそうなスープや甘そうなフルーツケーキに、香り高い紅茶が目の前にある。
実に自然な動作でエスコートする彼は、まるで一流の執事のようだ。

「あ、あの…」
「どうかしましたか?何か嫌いなものでもございましたでしょうか……。
それなら直ぐに別のものを用意させて頂きます。何なりとお好きなものをおっしゃって下さい」
「い、いえ、そんなっ、大丈夫です!えっと…どちらも凄く美味しそうです」
「そうですか?それは良かったです。さぁ、紅茶がお熱い内にどうぞ」
「あ…はい。じゃあ、いただきます」

目前には食欲をそそる紅茶とフルーツいっぱいのケーキに、湯気を立てるスープ。腹が空腹を訴えた。
そういえば今日はまだ何も食べていない。唾が口に溜まった。
僅かに気分が高揚しながら、銀細工のフォークを手に取り……。

「っそうじゃなくて!」

二人の男に向き直った。
今度はさっきみたいに流されないよう、続けて言葉を畳み掛ける。

「あの、お二人は、誰なんですか……?
あの人の知り合い…です、よね」
「……それらも含めてお食事中にご説明しましょう。ともかく今は何か召し上がって下さい。お腹を空かせていますでしょうに」

ケインが雪弥のことを気付かってくれているのは確かだろう。
それが百パーセント善意から来るものなのかまでは判断がつかないが、その心配は嘘は感じられない。
元来お人好しな雪弥は幾ら気が立っているとは言え、その思いやりを無下にすることは出来なかった。
やや後ろ髪が引かれるものの仕方ない。雪弥は手に持ったままのフォークでケーキを小分けた。

「…美味しい」

口の中に広がるスポンジの細やかな甘の甘さ。それが程好くブレンドしつつ、アクセントとして味わう酸味が、後味をさっぱりとした。
目覚めたばかりのお腹にも優しいケーキである。よく店で買っている三百円前後のものとは訳が違う。
夢中で雪弥はフォークを進めた。

「お気に召されたようですね」
「え、あ…す、すみません……」
「いいえ、構いませんよ」

年甲斐もなく甘いものを一心に食べてしまって頬が染まる。
居心地悪く出間いを直すと、見計らったように、ケインは口火を切った。

「さて、少々長くなってしまいますが宜しいでしょうか?」
「……はい」

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