17
橙色の光がレースの帳を通して差し込む。
その優しげな光りに誘われて、雪弥はゆるゆると目蓋を開けた。
(あ、れ……?僕どうしたんだっけ…)
ぼやけた頭で記憶を反芻する。ぼうっと窓の外の花々を眺めていると、徐々に思考がはっきりし始めた。
(そうだ…僕は……!)
犯された。
あの男に、女かのようにさせられたのだ。
無理やり雄を突き挿れられて、それだけに収まらず中にまで出されて。
なのに自分は、それにあられもない声を出してしまった……。
「……っ…!」
悔しい。悔しい。悔しい。悔しいっ……!
溢れ出ようとする涙を、拳を作って堪える。代わりに、噛み締めた唇から血が滲んだ。
恐怖でも、羞恥でも、悲哀からでもなく、怒りで体が震える。
男に対してではない。情けない自分自身にだ。
確かに自分の見た目は女性的だ。
体は細いし力も弱い。喧嘩なんて出来やしない。少女のように花が好きだ。
認めよう。認めよう。全て認めよう!
けれど自分は、男なのだ。どうしようもなく、男なのだ。
プライドがある。誇りがある。意思がある。
あんないいようにされて、悔しくないわけがなかった。
「……ぃっ…!」
鈍い痛みが腰に走る。
起き上がることもままならない体に、自嘲が落ちた。
「……くぅっ…!」
握り締めた拳が枕を叩く。
何度も、何度も、何度も。
けれど質の良い柔らかな枕は、手を痛ませてもくれなかった。
何時までそうしていただろう。気が付けば日は既に暮れていた。光は銀色に変わっている。一瞬、男の髪の毛が脳裏を掠めた。
振り払うように唇を噛む。鉄臭い味が舌に広がる。
少しだけ、落ち着いた。
若い体は回復するのも早い。腰は痛いが立たないことはなかった。
毛足の長いカーペットが裸足の足を包む。壁伝いに歩いて扉に向う。
今回は、男はやって来なかった。
「……くっ…!」
知らず、ホッとしていた自分に頭が赤く染まる。勝手に怯える体が疎ましい。さっきも自分は、男の影に囚われていた。
(……無様すぎるっ!)
檻に囲われた獣が、鉄格子に爪を立てる。
密やかに眠っていた雪弥の内にいる獣。
それが唸りを上げて目覚めた。
自分自身にも傷をつける勢いで牙が剥かれる。
自分にこうも激しい感情があるなんて知らなかった。
己の性格は穏やかな方だと思っていた。
こんな、内から焼き付くすような怒りなど知らない。
知らないままで、いたかった。
一つ深呼吸。
荒れ狂う獣は、それだけで少し凪いだ。
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