「……どこ、ここ…」

悪寒が雪弥を襲う。
身を守るように両手で己の頼りない細い体をを掻き抱くと、そこで服までもが違っていることに気付いた。
安さで買ったタートルネックの白いセーターと細身のジーパンというシンプルな装いから、これもおそらくシルクで出来ているのだろう、肌触りの良い白地に藍色ストライプのシャツと臙脂のリボンタイ。その上に光沢のある黒のベストを羽織り、品のある黒のスラックスを身に纏っていた。
その姿はまるでどこぞの貴人のようにたおやかで。

「……な、に…これ…」

次いで雪弥は首にあるモノに目を移した。
震える指で“ソレ”に触れる。
ソレは、美しい漆色の細身の革に、紫水晶で出来た蝶の飾りがついたチョーカーだった。そのチョーカーが細い首をぐるりと回っている。
だが何故だろう。
雪弥にはこれが綺麗な首飾りではなく、ペットにでも付ける首輪のように思えて仕方なかった。

「……っはず…れ、ろっ…!」

言い知れぬおぞましさにつき動かされて、無理やりチョーカーを取ろうともがく。
が、それはびくともしい。

気持ち悪い。
恐ろしい。
吐き気がする。

訳も判らぬ場所に連れて来られて、勝手に服を替えられて、果てはこんなモノまで付けられて。
いったい何だと言うのか。
意味が分からない。
思考がショートする。
じわり、と視界が歪んだ。

「……もっ…なんなんだよっ…」

不安と恐怖に災なまれながら、じっとするにも恐ろしくて、ベッドから下りる。
ともかくここではないどこかに行きたい。その一心でそろそろと扉に向かう。
が、雪弥が辿り着く前に扉は開かれた。

「目覚めたようだな」
「……ぁ…」

現れたのは刃色の髪に、ダークブルーの瞳を持った一九〇は有ろうかという雄々しい長身の美丈夫。
それは紛れもなく、雪弥のアパートにいたあの男だった。

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