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人見知り不発動



1週間の仕事を終え休みを迎える前日の夜と言えば、飲みに行くなり家でまったりするなり人よって行動も様々だし、かく言う私のパターンも決まってる。

だけど今日の私は一味違う、沖田くんは誘えないし友達を誘うのも気が引けるしで1人で来たけど、月2,3回くらいは店に出てるそうで丁度2週間前に聞いた出勤の日が私の休み前日と重なっていて、行きますねと流れるように宣言をしてしまう程とても興味が湧いてしまい色んな意味で緊張しながら扉を開けたら直ぐに人が来てくれた。


「いらっしゃぁい、あら珍しいお客さんじゃない、1人?」

「あ、はいっ、1人です。」

「新規のお客さんよね、テーブルと座敷があるのよ、どっちにする?」

「えっと、テーブルでも良いですか?」

「勿論良いわよ、じゃあついて来てね」


勝手にバー的は感じかと想像してたけど違ったらしい。
案内してくれてるこの人は如何にもなオカマさんだけどステージで踊ってる美人さんもオカマさんって事だよね、女性顔負けなくらい凄く綺麗。
男性のお客さんが多いのかステージ前の座敷に座って飲んでる人が見えたから、あそこで一緒に飲むのは中々厳しそうでテーブルにしたけど、それだとオカマさん付いてくれるんだ。なら座敷の方が探しやすかったかな。


「……あら? ごめんなさい、間違えちゃったわね、場所移動して貰っても良いかしら?」

「へ? あっはい、大丈夫です。」


案内されたテーブルにつき、チラッと違うテーブル席を見てみたけど近くには居なさそうだと思ってたら、離れて行こうとしてたオカマさんが急に戻って来て移動した場所は、さっきよりステージが良く見えるテーブル席。

一番奥の席で全体が見えるけどサイドにカーテンがあって他とは明らかに違う、まさか特別席なの? 何で?



「ホントに来たのかよ、しかも1人でこんな猛獣の館に来るなんざ度胸あんな。」

「……坂田さんですか?」

「ちょっとォ、本名バラさないで貰えるぅ? ストーカー被害にあったらどうしてくれんのよぉ」

「本当だ、ごめんなさい」

「ガチでショック受けた顔すんな、冗談だよ冗談」


だって可愛いんだもの、びっくりする。
ピンクの着物を身に纏ってふわふわのツインテールが良く似合ってる、決して派手では無いピンクのアイシャドウと口紅も一見やる気無さそうな顔に映えて馴染んでる。


「……可愛いですね、」

「そんなマジマジと見つめられると流石に照れんだけど」


少し呆れた顔しながらも隣に腰掛け、お酒を作って渡してくれた。横顔も可愛いな、テーブルに手を伸ばす度に揺れるツインテールと見慣れない着物がまた目を引いて、胸に何入れてるんだろう。タオル?


「なぁに、そんなじっと見ちゃって。」

「いえ、可愛いなって」

「口説いてんの? パー子意外と高いかもよ?」

「ふふっ、貢げるように頑張って働いて来る」

「はははっ、金の使い処間違ってんだろ」


横目で向けられた視線が色っぽいなって思ったら、口を開けて笑う顔は幼げで可愛らしい。


人が足りてない時だけのバイトだって言ってたから実際にオカマさんな訳では無いのは分かってるけど、見た目がとても可愛らしいってだけじゃなく何故かとても安心してしまって初めましてなのに物凄く楽しくお酒が進んだ。お名前はパー子さんって言うんだって、綺麗な手で作ってくれたお酒が凄く美味しくって、最後ら辺はあんまり味がしなかったけど冷たくて美味しかった。





「っ、……ん、らんか、ゆれ……っ、」

「飲み過ぎなんだよ、だから止めろっつったろうが、もっと早く水飲ませりゃ良かった。」

「うっ、くちから、れそ、ゆらさらいれ、」

「仕方ねぇだろ階段あんだから」

「んん、」


急な揺れに身体だけじゃなく脳まで揺れ、瞼はボンドでくっ付けたのかってくらい開かないけど風が顔に当たり寒い、吐き気より胃にあるお酒が逆流してきそうなのを頑張って耐えてるけど、いやこれが吐き気なのかな、もう良く分からない。
口から出そうな物を堪え顔の近くから感じる暖に頬を寄せたら温かくて埋まるようにへばりつく。ふわふわしてて、何か良い匂いするし、腕で引き寄せたらもっと温かくて揺れが止まった。すると段々と気分の悪さが引いて来て、どんどん思考がゆっくり落ちて行き何も考えられなくなる。











目覚ましを掛けなくても良い朝の目覚めはとても良く、脳が目覚めゆっくり瞼が開いて視界がクリアになるまでボーッとしてたら犬のぬいぐるみと目が合った。
私の家にぬいぐるみは1つも無い、しかも何処かで見覚えのある子だ。
………………いや何処かなんて現実逃避でしかないくらい見覚えちゃんとある、ここは見慣れた自分の寝室ではなく、見覚えある寝室、そうそれは2週間程前に。

横になったまま暫く見つめ、確か最初はタンスの上にあった筈、でもそう言えば戻すとき棚の上に戻しちゃったな、間違えた。
その棚の上から真っ白い犬のパペットがクリクリの真ん丸なお目めでじっと見つめてくる。

脳が覚醒して行けばどんどん甦る昨日の記憶。
パー子さんと楽しくお喋りしながら飲んでたんだ、ステージで踊ってる美人さんは桂さんだったらしくオーナーさんとそもそも知り合いだとか言ってた。
いやそんな事よりも、私途中から記憶無い、店から出た記憶全く無いよ絶対寝たよね。なのに外に居た記憶ちょっとあるんだけど、あれは……もしかしなくても運んでくれましたよね、揺れてたのは、…おんぶしてくれてた? 何かに腕回してた記憶あるもん、やけに温かかったしふわふわしてた、階段あるって言った?おんぶしながらマンションの階段上ったの?

……やらかした、完全にやらかしたよ消えたい。てか起きなきゃ、ここあの人のベッドじゃんいつまでも毛布に隠れてたって消える術は私にはない。
本人は……居ないな、布団も敷いてないけど何処で寝たんだろ。

上着は掛けてあるし鞄はベッドの下に置いてあるし、なんて申し訳ない事をって、11時ィィィィ!? 朝の!? いや11時だもん昼!カーテンから漏れる光は月の光ではない、開けなくても分かるよ太陽の光だよね、どんだけ爆睡してたんだよ私。
スマホを持つ手から力が抜けるけど立ち上がらなきゃ、いい歳した社会人が何をやっているんだよ申し訳無いし恥ずかし過ぎる。
しかも初対面の人の前で、正確には二度目だけども。


何てお詫びすれば良いんだと、まだ謝罪の言葉は考え付かないけど取り敢えず丁重に詫びて後日菓子織り持参して再び謝罪に来ようと思いながら寝室からそっと出たら居間に居ると思ったのに居なかった。

前回来た時には賑やかすぎる程人が居たのに今は誰も居ない、シン、と静寂に包まれた部屋から人の気配がしない。
家主は? 母に置いて行かれた子供のように台所とか洗面所も見て回ってしまったけど結局家主は居なかった。完全にぼっち。


家の真ん中で突っ立ったまま途方に暮れる事数分で、ガチャリと鍵の開く音が聞こえ、吸い寄せられるようにノロノロと歩いて向かうと出掛けていたらしい家主が玄関に居た。こっちに背を向けて靴を脱いでいる後頭部が見える、多分あれに顔を埋めたんだ、ごめんなさい。



「っうぉ!?!? び、びったぁ、なに突っ立ってんだ、せめて声を掛けろよ心臓に悪い。」


振り返った家主は軽く後ろに飛び目を見開いて左胸のシャツを握ってる。そんなに驚く事無いじゃないですか、お化けじゃあるまいし。



「どした? 具合悪ィ?」

「……だれも、いなかったから、」

「なに寂しかったの? だからんな所突っ立ってんのか、もしかして部屋中俺の事探しちゃった?」

「……」

「ふは、マジか。」


お酒のせいで思った以上に自分の声が掠れていて余計弱々しく響いた言葉が違う意味に聞こえ恥ずかしい。
ただ居なかったから何処に行ったのかと思っただけで、寂しかった訳では無い、勝手に帰る訳にもいかないしどうしたものかと途方に暮れてただけだもん。


近くまで来て笑いながらガサガサとコンビニの袋を漁る坂田さんは何故か楽しそうだけど、私は気恥ずかしくて無意味に自分の腕を擦り視線を落としてたら視界に入り込んで来た手の中には先日私が買った物と同じスキンケアセット。


「ん。これ買って来んのに出てただけ、さっき気付いたから。」

「……なんで?」

「この前買ってたのこれじゃなかった?」

「これ、おなじ、」

「ははっ、何か喋り方まで幼いんだけど、どうしたよ。まだ眠ィの?」

「……ねむくないです、いっぱい寝たので、」

「ホントな、ベッドに下ろしても全然起きねぇ位すげぇ爆睡」

「…………あの、本当に申し訳無い事を、と、とんでもないご迷惑をお掛けしまして、何とお詫びすれば良いのか、本当に申し訳、「顔洗ってくれば? 化粧すんだろ?」 ……え、」


遮られた、思いっきり言葉を遮られた。びっくりするくらいバッサリ切られて下げてた顔を反射的に上げたら化粧水を再度差し出されて思わず受け取ってしまう。

もう良いよ顔なんて、これ以上迷惑掛けたく無いし化粧崩れてるだろうけどこのまま帰る。でもシーツと枕に化粧付いたかな、洗って返すべきか。


「あの、シーツ洗…………、化粧すんだろ? 」


どう言う意味? 直すんじゃなくてする?
何となく自分の頬を触ってみたら化粧してないみたいな質感、皮膚呼吸も出来てるし、……化粧何処行った?


「? 全部シーツに付けた? ごめんなさい、もう買って返しますから」

「違ェわ、俺がクレンジングシートで落とした。」

「くれんじんぐしーと?」

「まだ酒残ってんの? 化粧は俺がベッドに寝かせた後に拭き取って落としたの。」

「え!? 」


拭き取って落とした!? クレンジングシートで!?
そんな事されながら爆睡してたのか私は!どんだけ寝てるの、起きて、お化粧くらい自分で落として寝てよ、いい大人が、人にしかも男の人に化粧を落として貰うなんて、それ以前にお酒に潰れて運ばれるなんて……何してるんだ私は。



「……重ね重ね申し訳ございません……、どちらでお休みになられたんですか?」

「ソファー。寝室には運んだ時しか入って無ェよ。」

「長時間働いた上に重労働させた身体をソファーで寝かせて飲んだくれた私がベッドを占領してしまったんですね、どれ程重ねてお詫び申し上げれば良いのか……」

「どんだけ落ちてんだよ、良いから顔洗って来いっての。」

「……はい、」


冷たい水で顔を洗ったら頭まで多少スッキリした、さっと化粧をして再度謝るべく気合いを入れ戻れば美味しそうな甘い匂いがしてきて、テーブルの上にはパンケーキ。
人のベッド占領して寝坊までしたのに加えてご飯まで用意されて、しかもクマさんだよ可愛いな。丸い耳付いてるしチョコで顔が描いてある。


「……可愛いクマさん」

「食えそ?」

「食べたいです」


おやつも作れちゃうんだ、頂きますと言葉を添えて一口食べたらとっても美味しいし、どうやって作ったのってくらいフワフワしてる。


「とっても美味しいですね、フワフワしてます。普通のパンケーキと違いますか?」

「豆腐入れてんの」

「お豆腐? お豆腐入れたらこんなにフワフワになるんですか??」

「そー、餅入れても旨いんだけどな、まだ胃キツいかと思って豆腐の方にしといた。」

「お餅も入れるんですか、お料理上手ですよね、レシピ盛り沢山? お気遣いまでありがとうございます。」


朝ご飯なのかお昼ご飯なのかは置いといて、この人と二人で食事をしてる現状が不思議でしょうがない。さっきまでは脳内が申し訳無いで埋め尽くされてたから大丈夫だったけど、落ち着いて来たら慣れない人と二人きりの事実に緊張してきた。何か喋った方が良いよね、一度会話が止まると息が詰まりそうなこの時間が怖い、仕事だと思って落ち着いて考えれば笑えるのに、申し訳無いと思ってる相手なもので余計に人見知り発動して喋れない。


「……っえ、何で見てる、何ですか」

「いや、全然目ェ合わ無ェなぁと思って。」

「あ、……す、すみません、私、」

「人見知りなんだろ? 知ってる」


顔は見れても目を合わせるって言うのは中々に難しくって合わせても直ぐに逸らしてしまう。良く無いのは分かってる、感じ悪いよね、友達とか慣れた相手なら普通に目を見て喋れるんだけど。


「昨日は目ェ見て喋ってたからさ、慣れたのかと思ってよ」

「パー子さんですか? パー子さんは不思議と最初から大丈夫でした、とっても可愛いかったですね、楽しくって飲み過ぎでしまうほど舞い上がってしまいました……。」

「何でそんな舞い上がれんのか分かんねぇけど楽しかったなら良かったよ」

「はい、もうとっても。……あれ、ちょっと待って、お金は? 私払って無いですよね、私のお財布から払ってくれました?」

「勝手に財布から抜くワケ無ェだろ、バイト代から差し引いて貰うから平気だって。」

「いやそれ全然平気じゃないですよね!? バイト代が私の飲み代になってる! いくらでした? 私今払いますから、そしたらバイト代減った事にならないですよね」

「いらねー」

「何でですか、私が飲んだお酒なのに私が払わない意味が分からないです、いくらですか?」



無視。聞こえてるでしょ、何で無視してパンケーキ食べるの。



「良いですもう、勝手に置いて行きますから。ついでに化粧水のお金も置いておきますね、助かりました、ありがとうございました。」

「じゃーさぁ、パフェ奢ってくんねぇ? 」

「パフェ?」

「行きてぇ所あんだけどさ、ファミレスならまだしも男1人だと入りづれェ所とかあんじゃん。そこ一緒に行ってくんね? んでその金使って甘いもん奢ってよ」

「ならこれとは別に奢りますよ、これは私の飲んだお金なのでお支払します。お詫びもしたいと思っていたので丁度良かったです、そこのカフェに行きパフェを私が払います。」

「食いてぇの1個じゃ無ぇもん」

「多大なご迷惑をお掛けしましたので、お好きなだけ注文してくれて良いですよ勿論」

「そうじゃねぇっつの。んー、まぁ良いわ、んじゃ有り難く貰っとく、好きなだけ注文して良いっつっても一気に食えねぇし時間空けていーの?」

「はいどうぞ。」

「じゃ、連絡先交換して。LINEで良いから。」

「はい、私QRコード出して良いですか?」

「ん」


スマホ向けて差し出せばフォークを口に運びながら片手で操作した後、私の持つスマホに近付けてから離れる。
確認すれば見知らぬイチゴ牛乳のピンクのアイコンが確認出来た。


「そんなにイチゴ牛乳好きなんですね」

「おー、ずっとコレばっか飲んでるわ」

「飽きないんですか?」

「今んとこ飽きる気配無ェな。」

「一途何ですね」

「んー、そぉかも。」


口許に笑みを浮かべながらコップに入ったピンクの液体を飲む姿が、一瞬パー子さんと重なって可愛く見えてしまいそうになる。
昨日ちょっと甘い匂いすると思ったんだよね、飲み過ぎで身体からも甘い匂い発してるのかな。





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