現パロ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
不要の感情



今日職場で小腹が空いたと訴えて来る沖田くんに持ってたクッキーを分けてあげたら「これ旦那と買いに言ったんで?」と普通のボリュームで聞いて来るものだから周囲の視線を浴びたけど沖田くんは馬鹿じゃ無いから絶対わざとだったと思う。
だから私も「その愛称を否定する訳じゃないけれど誤解しか生まないから時と場合を考えてくれないかな。」とやや大きめに愛称と言う単語を出し誤解しないで下さいねアピールを周囲にして置いた、変な噂とか面倒だから本当に止めて頂きたい。


「二人でカフェ巡りまだ続いてんだ?」

「そうだね、何かいつの間にかただのカフェ巡りになってる。」


そして結局殆どお金払ってない、1回目だけはすんなり払わせてくれたけど2回目からは気付けば会計済みになってて意地になって払おうとしたら「男に恥かかせんの?」とか「店で騒ぐなよ恥ずかしいだろ」とか何かしら理由を付け追いやられてしまい払えずじまい。
いっそポケットにこっそりお金入れて置こうと忍ばせ満足して帰れば、脱いだ上着のポケットに戻って来てて1人で変な声出しながら驚いた。私は離れるギリギリに入れた筈なのに一体いつの間に忍ばせたのかも分からなくて、どうにか返そうと次はポケットの無い服を着て行きリベンジしたけど帰宅後に鞄を下ろすと謎のリボンが結ばれていて、嫌な予感しつつも開けばやっぱり戻って来てて落胆。

そんな事をやってたら気付けば出会って5ヶ月程経過していて、あの日置いて来たお金はとっくに私のデザート代に消えただろうし明らかにそれ以上払ってる、お詫びのつもりが奢って貰ってるだけになっててまるで意味が分からないよ。


「連絡来て自分で行ってる癖に、しかも奢って貰っといて文句なんざ随分ご立派になったみてェで。」

「そりゃそうなんだけどー、その通りなんだけどー」

「俺ビール頼む、お前は?」

「私も飲む、あと生つくねもうちょっと食べたい」

「ビール2つと生つくね盛り合わせ下せェ」


こうやって飲みながら喋るとつい口が軽くなって余計な事まで喋ってしまうからお酒って怖いよね本当。


仕事を終えて来るこの居酒屋は頻繁に来てるお気に入りの場所、お酒安いし何より串が美味しい、半個室で落ち着くし通い始めてもう何年経ったかな。


「マメにLINE来んの? 」

「……何か、毎日してるねぇ、時々電話もしてるかなぁ」

「何処のバカップルでさァ、付き合ってるんで?」

「いや付き合って無いよ」


私もね、これ付き合ってるのかなって思っちゃう時もあるよ正直ね。でもそんな雰囲気は無いもの、友達と話してる感じだしカフェ巡ってる時は甘味の話が殆どだもん。


「何で付き合わねぇの」

「なにが何で? だってなーんにも無いもん。」

「身体から何て始まんねぇだろお前。」

「そう言う何もじゃ無いよ! 別に私の事そんな風に見てないの、私が……、こう、ちょっと想ってるのとか、気付かれたら終わりなの」

「は? 何今照れてんの?」

「ちゃんと話聞いてくれる気あるのかな!?」


これだからドSは全く、分かりやすく引いた顔しやがってちきしょう。
私だって自分が気持ち悪いの分かってるよ、まさか自分にこんな感情があるなんて思わなかったからどうして良いか分からないのに聞いて来るから言っただけじゃんか。

だけど会う回数重ねる度にどんどん人見知りなんて無くなって行ったし甘いものは美味しいし、今じゃ笑う顔とか可愛なって思っちゃうんだもん。

最初は業務連絡のように会う日の予定だけの連絡だったのに、段々と増えて行き「旨かったから食ってみて」ってコンビニのデザート写真が送られてきたら食べたくなって足はコンビニに向かってしまうし、そしたらやっぱり感想言わなきゃって思って連絡続けちゃう。と言うか続けてくれるんだもん、男の人ってダラダラ連絡し合うの嫌いだと思ってたのに下らない事とか面白かった事とか特別な用事じゃなくても送ってくれるから私も送るようになって、電話して良い?って聞かれた頃にはもう嬉しいと言う感情があったし、そしたら気付けば毎日連絡してた。


「何で気付かれたら終わりなんでさァ」

「あ、ちゃんと聞いてたんだ。坂田さんってさぁ、女の人に困らないタイプの人だと思うんだよね」

「ハッキリ言えよ、回りくどい」

「面倒なの嫌いなんだって。先月だったかな、女の人に冷たく言ってるの見ちゃったんだよね、元カノか何かは分からないけど、"面倒くせぇなぁ、やらねぇつってんだろ"って掴まれた腕振り払ってたの。……多分、私がそうゆう感情を漏らせば、振り払われる対象に私も入るんだと思う。いや、そもそも連絡が来なくなるのか。」


優しい坂田さんしか見たこと無かったから、情もなく捨てるって言われてた事が想像出来なかったけど、それを見てようやく分かった。友達を大事にする人だと思うけど女性関係は面倒なのかも、私は今スイーツ友達だから優遇されてるだけ。

でもそれに何の問題も無い。沖田くんが聞いて来るから答えただけで付き合いたいと思ってる訳じゃ無いし寧ろ付き合ってる姿なんて想像出来ない。一緒に甘いもの食べるの楽しいし今のままが続けば良いって本当に思ってる。


「つまり、恋する自分に酔ってるんで?」

「別に酔ってる訳じゃないよ、ただこれがそうなんだと思って浸ってるだけ。気付かれたら困るからその内消すよ。」

「旦那が自分の事好きかもとは思わねぇの?」

「それは無いね、そんな風な目で見られた事一度も無いもん。いつも優しいお顔してるし。」

「ふーん。ま、好きにすりゃ良いけど。」


付き合う事が全てじゃないと思う、それに決定的に友達と恋人と違う戯れは私好きじゃないし。だから別に恋人なんて居なくて良い。そして今現在、坂田さんとのカフェ巡りがとても楽しいから幸せな時間過ごしてるよ、付き合ってた人が居た時より幸せなんだよ、そりゃ少しでも長く続けば良いって思っちゃうじゃない。










「よぉ久しぶり、って感じしねぇけど会うのは1週間ぶりだよな。」

「本当ですね、昨日電話したし余計に久々感は無いですよね。」


今日はワッフルのお店らしい、美味しかったお店にリピートする事もあるけど新しいお店に行く事も多い、休日のご飯時を避けて向かい、他愛ないお喋りしてたら時間なんてあっという間に過ぎ去って行く。


「モチモチしてるワッフルですね、美味しい!」

「サクサクよりこっちのが好き?」

「サクサク食べづらいから」

「どんな理由だよ、つかこれ渡すの忘れてたんだけど辰馬からの土産。」

「わぁ、また私にもくれるんですか? ありがとうございます、何だろ」

「ボディミルクっつってた」

「化粧品やら何やら沢山頂いて暫く自分で買ってないですよ私、有り難い。お礼何にしようかな」

「お前が作って出してた飯また食いてぇつってたからそれで良んじゃねぇの? 日本の飯が恋しくなんだと。」

「そんなのいくらだって作りますけどご飯だとタイミング的に難しいですね、私そんなに会わないし。」

「次の飲みには来るってよ、お前も来んだろ?」

「行きたいっ、坂田さんのご飯楽しみー」


私は辰馬さんに個人的に会うこと無いから何か買って坂田さんに渡して貰ってたけど、定期的な飲みの集まりにも私もあれから参加させて貰ってて、その時に居るならお礼言ったりリクエストされた物作ったりしてる。

2回目に行くぞど沖田くんに言われた時は行きたくないと拒否してたのに、ベロンベロンに酔わされ無理矢理行くと頷かされてる私の動画を沖田くんに見せられて一応は抗議したけど「お前嘘付くんだ?」と鼻で笑われた瞬間静かにキレた私をその場に居た土方さんが宥めてくれて結局行く事になったんだっけ。
でも一度皆で出掛ける事があって、それで一気に馴染んでしまった私は今じゃとても楽しんでしまっているし特に坂田さんとは毎日連絡取ってるとか改めて考えると変な話だな。


「そう言や旨そうなクレープ見付けたんだけどよ、ちょっと遠かったんだわ。今度スクーターで行かねぇ?」

「スクーター? 」

「俺バイク持ってんの、後ろ乗んの怖ェ?」

「バイク持ってたんですか、私乗った事無いんですけど大丈夫ですか?」

「跨ぎやすい服着て来てくれれば大丈夫、メット被って貰うから髪乱れっかもしんねェけど、どうせ手で直んだろ」

「何ですか最後の微妙な嫌みのような嫉妬は。分かりました、行く日は事前に言って下さいね格好気を付けますので」

「んじゃ天気良さげな日に行くか」

「人乗せて運転する事ってあるんですか?」

「たまにな、女乗せた事は無ェけどへーきだって、安全運転するし。」

「いえ心配ではなくて何となく聞いただけですよ」



こうゆう事をサラッと言って来るから駄目なんだと思う、そんな事言われたら私だけ特別なのかなって勘違いしちゃうし「何となくかよ」って笑いながらイチゴミルクをストローで飲む姿にもドキッとしてしまうくらいには育ってしまってる。
けどそれを表に出せる程可愛げある性格してないのが唯一の救い、消せなくなる程育っちゃったら困るからそろそろ気を引き締めようかな。
万が一にも気付かれたらもう飲みも参加出来ないからちょっと寂しいもん。


「駄目ですよ、次は私が払うって言ったじゃないですか」

「何が? 花摘んで来るだけだって」


カフェの中だと何故か花摘んで来ると物凄く気を使った言い方をする、私そんな言葉使った事無いよ普通にお手洗い行くって言うし。
だけど食べ終わってから席を立つなら今までの経験上お会計も済ませようとしてるのはもう分かってるんだから。
ここ会計の紙がテーブルに無いからレジにあるタイプだもん、手ぶらで会計出来ちゃうじゃんか。


「そうやって毎回毎回払って貰っちゃうと、私来にくくなっちゃうんですよ。」

「でも来てくれんじゃん」

「……いや、まぁ来てますけど……言い訳かもしれませんが奢って貰う気満々で来てる訳では無いです……」

「んな事思ってねーっつの、俺が来たかった所誘ったんだから良いだろ別に」

「何言ってるんですか、前に私が行きたい所行った時も払わせてくれなかったじゃないですか。」

「そーだっけ?」

「そーやって直ぐとぼけたフリする、絶対覚えてますよね、片方だけに負担掛かる会い方は良くないと思います」

「俺に会うの負担掛かってんの?」

「いや私じゃなくて、毎回お金払ってる坂田さんが負担掛かってるんです」

「俺旨いモン食ってその金払うだけだし負担なんざ無ェけど。折角良い気分なのに勝手に負担掛けてくんのやめてくんない? 」

「えぇ? 何で私が悪いみたいになってる、私が払うって言っただけなのに……あ、ならいっそお会計別にして貰えます? 凄く良い考え、友達とはいつも別にして貰ってるんですよ、自分で食べた物自分で払うからトラブル何も無いし気兼ね無くて楽なんです、ね、そうしましょう」

「今度な」

「それ絶対今度もしないやつですよね! 」

「しー、声デカいって喧嘩してるカップルみてェに何だろ、ほらミルクティまだ残ってんじゃん。飲んで落ち着けって」


コップが目の前に移動して来てストローで一口飲んだら程よい甘さが美味い。
どう言えば払えるのかな、なんて呑気にもう一口飲みながら目線を上げたら居なかった。音もなく忽然と姿を消した坂田さんにハッとして振り返ったけど手遅れで、花摘みに行く筈がやっぱりレジに居た後ろ姿を今更追い掛けても、わーわーやってるバカップルになってしまう。それだけはもうごめんだ。


恨めしそうに見てたと思う、会計を終えた坂田さんがチラリとこっちに目線を向けて来て重なったら、笑いながら軽く舌を出されてミルクティが変な所に入るかと思った。
その後本当にお手洗いに行ったけど、ああゆう時々見るお茶目なお顔もとても可愛いと思ってしまうから本格的に不味いよね。

戻って来たらちゃんとお礼言おう、奢って貰う気満々の図々しいやつって思われたくなくて何とか今日こそ払うと気合い入れてずっと見てたのにな。
せめて半分でも払わせてくれたら気分も軽くなるんだけど毎回こんな攻防みたいな事を繰り返してしまってる、素直にありがとうございますと言える女の子の方がきっと可愛げあるんだろうな。

そうやって可愛げを気にするようになってる自分にも驚くけどね、可愛いと思われたいって事じゃん。



「レジの近くに店で作ってるクッキー置いてあったけど見て帰る?」



心で自分に溜め息を吐いてたら、戻って来た坂田さんはさっきのやり取りをまるで無かったように振る舞って来ておまけに話題を変えてくれると言う女の扱いに長けてる人。



「クッキー見たいです。」

「んじゃ行く? 」

「はい」



残りのピンク色した可愛い飲み物を飲み干し立ち上がった後ろ姿を追い、美味しそうなクッキーを自分用と坂田さんのお土産用に買って店から出た所で渡した。



「ご馳走様でした、ありがとうございます、とっても美味しかったです。」

「おー、つか毎回俺の分まで買わなくて良いってのに。」

「ただの自己満足ですよ、これを受け取って貰えたら払って頂いて申し訳無いって気持ちより美味しかった楽しかったなって気持ちが勝るので、クレープ楽しみだなってウキウキの気分になります。」

「そんな意味込めまくった土産なんだ。なら有り難く貰っとくわ、サンキュー。」


数枚のクッキーが入った袋を大きな手に乗せる時、決して触れる事は無いのにドキドキと心臓が煩いったら無い。




あの手は他の人には触るんだよね。今は彼女は居ないみたいだけど、そうゆう事する相手は居るんだっけ、いや最近は無いんだっけ?
最初の頃そんな事言って気がするけど私には関係の無い事だったしあまり覚えてないな、でもいつも優しい顔をするあの人も男の顔する時があるんだと考えると、その欲を不要とする私には到底ご縁の無い人なんだなと気持ちの整理は簡単かも。


私は恋愛より友情が良いんだから。





[prev] | [next]


[ 戻る ]