起点とお節介と只のバカ
1週間後の集まりに連れて来てくれると分かった時点で先ず最初に部屋の掃除を徹底的に開始した。
ここ最近は俺の家で飲む事が多かったから物は揃っちゃいるが、女目線で見ることなんざ無かったし部屋で幻滅されちゃ笑えねぇからな。
普段ならざっと適当に場所をあける程度だが取り敢えず拭いて片付けて、大掃除すらやらなかったってのに1月に入ってから未だかつて無い程の掃除を始め、まぁヅラが真面目に手伝ってくれたから助かったけどもう1人は何しに居んのか邪魔でしかない。
「銀時、トイレはどうするのだ? ピンクに飾り付ければ良いのか?」
「いやいや男の独り暮らしでトイレピンクは気持ち悪いだろ、シンプルが一番。清潔感がありゃそれで良い。」
「うっかり長い髪でも落ちてりゃァ、一発で終わりだろうな?」
「この部屋に女入れた事なんざ一度も無ェわ。」
「お前に付着した髪が落ちる事もあるだろ、寝て無くても痕跡残す方法ってのがあるらしい」
「んなそうそう付着何て、……エッ!? 長ェ髪落ちてんだけど!? マジで!?」
「すまぬな、髪を結うべきだったか。」
「いやお前かいィィ!! 」
「ククッ」
アイツは本当に邪魔でしかない!! 何してんの!? 掃除も手伝わねぇ癖して何で人の部屋で高みの見物してんだよ!
「お前は邪魔すんなら帰れよ! 」
「連れねェなァ、初見しかもツラ見ただけでお前があそこまでなる姫さんにようやくお目にかかれるんだろ? 楽しみじゃねぇか。」
「お前さぁ、マジで余計な事すんじゃねぇぞ。そして余計な事を言うな。」
「別に俺から何をしようとも思ってねェよ、一体どんなイイ女なのかと思ってよォ。あれから半年だろ? 半年間女断ってソイツに会いもしねぇでひたすら想い続けたって? 傑作じゃねぇか、是が非でも拝ませて貰いてェよ」
もうコイツは無視で良い。完全に面白がってるし相手してたらキリが無ェわ。
「手拭いはどうするべきか……、例えあっても俺達が使ったタオルは使いたくなかろう。」
「リアルに切ないな。んな所まで考え無くて良いから、ハンカチ持ってっかも知んねぇし気にせず使うかも知んねぇし。つかそう言う事考えちゃったらそもそもここでトイレ行けねんじゃねぇかとすら思えてくんだよ俺は。」
「気にし過ぎだろ、男の部屋で寝泊まりした事くらいあるだろうが。」
「うむ。それもそうだな、ならば次は台所のシンクを磨こう。」
けど彼氏や総一朗クンの家と赤の他人の俺ん家は果たして同等なのだろうか、赤の他人で独り暮らしの男の家だぞ、……まぁしかし考えたって仕方無ぇか、それでも来て貰いてぇもんよ。
にしてもヅラはすげェ協力的だな、突然女が来りゃ何かと思われるだろうから、総一郎クンの同期の女の子が来るけど手ェ出すな構い過ぎるなとここに居る二人と遅れて来るらしい辰馬にも連絡を入れておいた。
それだけで何かを察したらしいヅラは掃除の手伝いを自ら申し出て、辰馬も何故か馬鹿みたいに喜んで土産を買って来ると言ってたな。
高杉には最初からバレてる上に楽しんでやがるから厄介だ、コイツは俺とほぼ同類、しかも面白半分で何しでかすか分かったモンじゃねぇよ。
例え万が一に誘いがあってもあの子がノるとは思えねぇが、ちゃんと拒絶が出来るのかも分からねぇ。総一朗クンが居るとは言え俺も見てねぇと危ねぇわ。
正直言えばコイツらに会わせたくは無かった。
けど俺と総一郎クンの3人ってのも不自然な流れだし、人見知りなら寧ろ大勢の方が適当に寛げてラクなんじゃねぇかとも思い、加えて料理振る舞ってアピールしてぇなって下心まで出て来ちまえば、大串クンともまぁまぁ喋るらしいからその辺に居りゃ俺も心配しなくて済むしあの子も大丈夫なんじゃねぇかと言う結論に至ったわけだ。
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当日になり、何故か俺よりソワソワしてるヅラが視界で行ったり来たりと やかましいくらい歩き回ってる、酒を飲み始めてる高杉の方がまだマシだ。アイツ料理は皆が揃うまで手を付けないと言う変な所で律儀な所があるし。
「緊張して止まってられん、ちょっと外を散歩して来る」
「意味が分からねぇよ、何でお前がんな緊張すんだ大人しく座ってろ。」
「だがしかし銀時の意中のおなごだぞ、まさかそんな日が来るなんて……感極まるではないか。」
「マジでやめて、何か変な空気になっちゃうから。」
「来たんじゃねェか? 」
「っ!?!? ちょっと待て心の準備が……っ、」
「いやだから何でお前がそんな緊張してんの!?」
「お邪魔しやーす。」
「おおおお、おぉ!良くぞ来てくれた!沖田と瓜二つだな!!」
「いや俺ァ沖田本人ですケド」
「ホントにやめて、俺近くに居るだけで凄い恥ずかしいから。」
玄関の扉が開いて総一郎クンが現れた瞬間にヅラが飛び出してアホなコントし始めるからもうグダグダだよ。
大串クンが何処まで知ってんのか俺は知らねぇけどヅラを連れて中に入って行ったからある程度は知ってんのかもな。
「あ、あの、す、すみません、私いきなり来てしまいまして、お邪魔だと思いますので早急に立ち去るつもりではございますが、そもそも最初からお邪魔だとも思っ、ぁぁぁっ沖田くん、私を置いて行くの!?」
「だって長くなりそうだし。」
「そんなぁっ!」
こっちもコントみてぇになってる。必死に下向いて自己紹介的なものをしてくれてんのにそれを放置して1人さっさと上がっちまった総一郎クンの背中に片手を伸ばして困った顔して見つめてる。
にしてもこんな近くで見んのは初めてだな、目は合わねぇけど姿見んのも久々だ。
「どーもォ、初めまして、ここの家主の坂田銀時つーの。馬鹿ばっかりの集まりだけどあんま気にしねーでラクに過ごしてくれて良いからさ、ほら入んな。」
「あっ、……えと、初めまして、名前と申します。お邪魔させて頂きます。」
深々とお辞儀をした後に、とっくに居ない総一郎クンの後を早足で追うように向かう背中を見つめる処じゃなかった。
今、目ェ合ったわ、頭が上がった後に一度俺を見た、時間にしたら一秒にも満たねぇだろうけどしっかりと重なった瞳は、もう……
「…………は、ヤバ、」
ヤバいくらい綺麗だった。その場にしゃがみこんで両手で鼻も口も覆って息が漏れないようにしねぇと叫びそうなくれェに、魅了された。
「……ぁー、……」
「そんな感動しやす?」
「暫く浸ってたいくれェにな、……って何してんだお前は、何そのスマホ。ホント何してんの?」
「ムービー撮ってやす」
「何で!?」
ほらバカな事してっから不安がって戻って来たじゃん、あれ絶対お前探して戻って来たんだろ羨ましいしいな、ちきしょう。
思った以上に総一郎クンにベッタリで、親戚の集まりに母親にベッタリくっついてる子供みたいだと思って見てたけど、あんなに気に入ってると宣言してた割には意外と総一郎クンの方は放置気味だった。そのせいでヅラに捕まりひたすら変なキャラトークを聞かされてる、可哀想だがどう入ってやれば良いのかも良く分からねぇしで俺は殆ど話してない。変な目で見ちまわないか心配で、無意識にでも欲乗せちまってたらと思うと、かなりヒビってる。
けど折角同じ空間に居るんだし料理運ぶついでに ぽつらぽつらと話し掛けてみてたのに、やはり大人しくはしてられねぇらしい高杉が余計な事を言い始め本気で沈めてやろうかと軽く殺意抱いたけどフォローしてくれないらしい総一郎クンの返しに失敗し自分で墓穴掘った。
「最近は無視だけどな、この半年は眼中にも無い。」と言い訳にも似たフォローを自分でしておいたが、果たして引き吊った顔してる彼女の耳に届いたかどうかは疑問だ。
下げた皿を追って付いて来た時は焦った、洗うっつーし俺に戻って貰いてぇのも分かったけど、んな勿体ねぇ事は流石にしねぇわ。ちょっとムッとした顔して一瞬重なる視線にニヤけても直ぐに目線逸らされるから気付いてねぇと思う、だから今の俺には好都合。
そろそろ帰んだろう素振りを見せた瞬間に高杉のバカが酒の催促しやがるし、いつもなら余るくれェなのに何故か無いし、諭吉貰ったからまぁ行くけど見送りがてら総一郎クンも行かねぇかなぁつーつもりで誘ったのにまさか本人来るなんざ誰が想像したよ。明らかに狙ったタイミングで言ったんであろうアイツにこの時ばかりは感謝した。それでも帰りたがってんのにヅラは素なんだろうけどマフラー巻かれて帰れないと悟った顔は可哀想だったけど美味しい展開に俺は口元笑っちまったのをきっと数名に目撃されてる。
だから玄関に向かう途中視界に入った隠れるように置かれてる酒は見なかった事にした。
余計な事すんなとは言ったけどよ、こんな気の利いた事してくれるとは思わねぇだろ。
帰りたいと顔に書いてあるような表情でトボトボ付いてくる姿を横目に見れば、急に帰したくなくなっちまって、総一郎クンが怒るかも知んねぇけどだったらその時タクシー呼べば良いかと、言葉で押せば案外アッサリ折れちゃって迂闊に地雷踏んじまったけど何とか話変えたらそれが返って食い付きが良かった。
寧ろ良すぎるくれェにな、眩しい笑顔を見せながらパー子見てぇと言われれば俺もまた会えんじゃねぇかと期待しちまう。オカマ姿見られるのを回避するより、また会えるかも知れねぇチャンスの方が何十倍も今の俺には大事な事だ。
家に戻れば隠してあった酒が出てたが大して気にもしなかったんだろう、行く前より明らかに柔らかくなった表情で「デザートは冷蔵庫に入れますか?」と聞いて来る姿に頷きその間に総一郎クンに伝えれば「アイツが自分で決めたんなら好きにしたら良いんでさァ」と呑気。
もっと過保護なのかと思ってたけどやっぱり放任主義なの?
少しして眠そうに頭が揺れるから、合間に敷いといた布団に行くようクレンジングシート持たせて促せば俺の寝室に入って行き扉が閉まる。
もし今、総一郎クンと二人きりだったならば俺のこのテンション高めの気持ちを聞いて欲しいくらい舞い上がってる。
「良い子であったな。」
「ったりめーだろーがよぉ」
「気持ち悪ィな、顔緩み過ぎだろお前。」
「うっせー」
これが緩まずに居られるか。
物音くらいじゃ起きないとは聞いてたが、辰馬の声でけぇし流石に起きちまうんじゃねぇかと思ったけど部屋から音は聞こえねぇから多分寝てくれてんだとは思う、それでもやっぱり初めて来た所、しかも男の家なら不安で眠れて無ぇんじゃ?とも思う訳で、寝言やらイビキが響く中、寝室の扉を眺めればいつもの如く煩すぎて眠れないらしい総一朗クンが起き上がるのが見えた。
「俺寝れねーんであっちの部屋借りて良いですかィ」
「おー、寧ろお前居た方が安心するだろうしな。」
「旦那もいつもみてぇに自分のベッドで寝たらどうなんで?」
「えっ、……え? 良いの?」
いや今のは俺だけベッドで寝ても良いのかの言う遠慮ではなく、俺も部屋に入っちゃって良いのかと言う意味であって、そりゃァ勿論入りてぇけど見張ってると言った手前どうなんだ? 総一郎クンと同行なら許されるの? 近くで見張らねぇと俺が寝てる隙に間違って誰か入っちまうかも知んねぇしなとでも思えば良い? 未だかつて1度も無ぇけど。
「……お邪魔しまーす」
「自分の部屋ですけどね」
「あっそんな普通に入っちゃう感じ? お前凄いね、俺感心する。」
何の躊躇も遠慮も無しに布団めくって入り込んでるよ、しかも布団の中で身体を押して自分の場所を確保までしてやがる、それでも起きねぇのか。
「どうですかィ、念願の寝顔は。」
「言葉無くすってこの事だろうな。」
枕元にしゃがみ込み真上から眺める寝顔は、思ったより幼げで定期的に聞こえる寝息が心地好すぎてずっと見てられる。
「……はぁ。……臭いって思われたくねぇし俺着替えるわ」
「ため息漏れる程なんで? これがそんなに?」
「いやいやかなり可愛いって、見慣れて感覚おかしくなってんじゃね? ってお前何してんの? 何で普通に触ってんの??」
「髪避けてやっただけですぜ、上手く事が進めば触り放題じゃねぇですかィ。」
だと良いけどなぁ。そんな未来があると願いてぇよ俺だって。
けど少し怖いわ、俺も傷付けちまうかもしんねぇし、大事にしてぇと思ってもその方法が分からねぇ。
……それでも、やっぱ惚れてくんねぇかなぁと思わずにはいられねぇから、その輝かしい未来が来るように頑張るさ。
ベッドに入っても少し高い位置から寝顔が見え、既に眠気なんざ吹っ飛んだからサラッサラのあの髪に指入れたら気持ち良いんだろうなぁとか、スベスベそうな頬に指沿わせてぇなァと眺めてたら、モゾッと動いた後に寝返りをうち身体ごとこっちを向いた。
そこまで近けぇわけでも無ェけど顔が緩むのを抑えきれる筈もなく、いつまでも眺めていられそうだと思ったがいつの間にか寝ちまったらしく微かな電子音で目が覚める。
いつもなら覚めねぇのに目が勢い良くパッチリ開く程脳が一瞬で覚醒し、こっちに背を向けて総一朗クンと話してるその姿に話し掛ければ驚いた顔して振り向く顔はやっぱり幼げ。なのに目はでけぇまま、しかも驚きすぎたのか目もしっかり合った。
二度寝しても俺を呼ぶ柔らかい声で直ぐに目なんざ覚めたけど、きっとヅラ辺りが言ったんだろうし折角の二人きりを遠慮無く楽しんでから起き上がれば、辰馬に貰った土産が化粧品だったから返すと差し出して来て何故女物なんざ買って来たよと不自然過ぎる土産に苛立ちを覚える。
中身を見れば大量でどんだけ買って来たんだと言いたい。しかも自分に買って来たと言われたって? 誤魔化すの苦労したわ。
だから先に居間で注意受けたんだろう俺を見るなり謝って来たバカを、テーブルに沈めるのは許される筈。
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